
研修を“やりっぱなし”にしないために――行動変容につなげるフォローアップ設計とAIコーチング活用法
2026年1月29日、MBK Wellness株式会社と株式会社コーチ・エィは、「研修を“やりっぱなし”にしないために――行動変容につなげるフォローアップ設計とAIコーチング活用法」と題したオンラインセミナーを開催しました。
要点サマリー
研修で学んだ内容が現場で実践されず、行動変容や成果につながらない――。こうした課題は、研修を企画・実施する上で、誰もが直面するのではないでしょうか。
本セミナーは「フォローアップ設計」を起点に、学びを現場実践につなげるための具体策を紹介することを目的に開催されたものです。
冒頭、MBK Wellness株式会社 サイコム・ブレインズ事業本部 デジタルラーニング事業部 副部長 小西 功二氏は、自律的な学びが持続する「ラーニングカルチャー」の必要性を整理し、テクノロジーを活用した学習環境づくりの方向性を示しました。
続いて、株式会社コーチ・エィ 事業開発本部 サービス開発部 AI推進グループ 山田 和樹氏は、同社が開発するAIコーチング・サービス「CoachAmit」を活用しての、具体的な行動実践への導き方を紹介しました。コーチングの本質である「問いかけと応答」によって内省を深め、行動宣言へと導くプロセスを、24時間365日利用可能な形で提供する仕組みが解説されました。
対談では、Cicom-LXD「まなラン®」フォローアッププログラムにおける相互学習と、AIによる対話支援を掛け合わせることで、受講者の言語化と内省の質をどのように高められるかが議論されました。研修を「実施して終える」のではなく、「実践と振り返りの循環」を設計することの重要性が、参加企業に向けて強調されました。
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なぜ今、「研修フォローアップ」の再設計が求められるのか
冒頭、小西氏は、企業を取り巻く環境がVUCA・BANIと表現されるほど不確実性を増す中で、ビジネスパーソンには継続的な学び直しが求められていると述べました。人生100年時代の到来によるキャリアの長期化、職業観の多様化、雇用のあり方の変化などを背景に、企業が人材育成を「一度学ばせる」だけでは十分でなくなっているという問題意識です。
そのうえで小西氏は、人事・人材開発部門に求められる役割が、個々の従業員の学びを支える「ラーニングカルチャーの醸成」へと重心を移しつつあると整理しました。ラーニングカルチャーを根づかせるためには、トップのコミットメントや制度設計だけでなく、日常業務と学習をつなぐ「学習環境の設計」が鍵になるといいます。
具体的には、多様な学習スタイルへの対応、自律的学習を支える仕組み、ナレッジ共有や相互フィードバックの場づくり、学習と業務を往復するサイクルの組み込みなどが挙げられました。小西氏は、とりわけこの「学習環境の設計」はテクノロジーで補完しやすい領域であると強調しました。
研修の最終ゴールは、受講者が学びを現場で実践し、必要に応じて行動を変え、パフォーマンスを高めることです。一方で現実には、集合研修と実務の間に“空白”が生まれ、学びが風化しやすいという課題があります。本セミナーは、この「研修と実践のあいだ」を埋めるフォローアップ設計を中心テーマに据え、議論を深めていきました。
相互学習で学びを深める――Cicom-LXD「まなラン®」の設計思想
小西氏は、学びを習慣化し、行動変容につなげるためのアプローチとして、Cicom-LXD「まなラン®」のコンセプトを紹介しました。特徴は、映像講座によるインプット、オンラインミニワークショップによるアウトプット、学習プラットフォーム上のチャット投稿による相互学習を組み合わせ、1〜3カ月の学習体験として設計している点です。
小西氏は、研修やeラーニングが「知識のインプット」で終わると、行動変容に至りにくいと述べました。そこで「まなラン®」では、学んだ内容を言語化して共有し、他者からのコメントやフィードバックを受け取るプロセスを組み込みます。受講者同士が問いを投げかけ合うことで、理解が深まり、実践に向けた解釈が磨かれていくという考え方です。
さらに今回紹介されたフォローアッププログラムでは、集合研修後に受講者がアクションプランを策定し、実務で実践し、投稿と振り返りを繰り返していきます。加えて、少人数グループでオンライン上の相互コーチングを行い、「実践→内省→対話→再実践」の循環を回す設計が提示されました。
一方で小西氏は、相互コーチングや自己内省の質にはばらつきが出やすいという課題にも言及しました。問いの立て方や振り返りの深さが人によって異なるため、プログラムとして一定の学習効果を担保するには“補助線”が必要になるという問題意識です。そこで協業の中核として位置づけられたのが、AIコーチング「CoachAmit」でした。
AIコーチング「CoachAmit」がもたらす内省の質的転換
山田氏はまず、同社が約30年にわたりコーチング事業を展開してきた背景を説明したうえで、AIコーチングの開発意図を語りました。コーチングは行動変容に寄与する一方、人のコーチだけでは提供できる範囲に限界があります。そこで「コーチングをより広く届ける」ために、スケーラブルな(ユーザーの増大に対応しうる)ソリューションとしてAIを活用したのが「CoachAmit」だといいます。
山田氏は、同社のコーチングを「対話を通して目標達成に向けた能力・リソース・可能性を最大化するプロセス」と定義しました。コーチは問いかけ、クライアントは問いを受けて自身の内側を探り、言語化し、そこから次の問いへ進む――。この往復が内省を深め、行動を変える力になるという整理です。
「CoachAmit」は、この対話プロセスをAIで再現し、テキストベースでコーチングを提供します。山田氏は、場所や時間を選ばず利用できる利点に加え、テキストだからこそ解釈の余白が生まれ、自分の価値観に向き合いやすい点にも触れました。また、一般的な生成AIの“それらしい応答”に留まらないよう、同社が蓄積してきたコーチングの知見や研究データをもとに、問いの設計や対話の運びを磨いてきたと述べました。
セミナーではデモンストレーションも実施され、研修で得た気づきを現場で実践しようとした際の迷いやギャップを題材に、AIが問いかけ、要約し、観点を切り替えながら内省を深めていく流れが紹介されました。山田氏は、単に話して終えるのではなく、理想と現状の差分を言語化し、次の行動に落とし込む設計が重要だと強調しました。
さらに特徴として紹介されたのが「コーチング練習」機能です。ユーザーがコーチ役となり、AIがクライアント役を演じるロールプレイを通じて、問いかけの質や関わり方へのフィードバックを受けられます。山田氏は、ティーチング中心の関わりからコーチングへ移行する際、多くの管理職が「問うこと」に難しさを感じると述べ、練習とフィードバックの反復が実践力につながると説明しました。
導入事例としては、AIコーチング単体での活用、研修と組み合わせた活用の双方が紹介されました。たとえば、研修後の定着を目的に活用したケースでは、1on1が「報告の場」から「対話し合う場」へと変化したという声や、上司の問いかけが増えたという声が示されました。研修の学びを咀嚼し、現場で実践するための“間”を埋める支援として、AIが機能しうることが語られました。
対談:フォローアップ設計におけるAI活用の可能性と実践ポイント
対談では、小西氏が山田氏に問いを投げかけながら、AI活用の現実的な論点が掘り下げられました。
まず、コーチングのような人間的営みにAIを導入する意義について議論されました。山田氏は、AIの強みとして「24時間365日」「場所を問わない」「何度でも使える」「品質を一定に保ちやすい」点を挙げました。一方で、人のコーチは表情や声のトーンなどノンバーバル情報を含めて関われるという違いがあると整理し、両者は置き換えではなく補完関係になり得るという見立てが共有されました。
次に、管理職育成における実装論として、「コーチングのつもりがティーチングになってしまう」という現場課題が取り上げられました。山田氏は、練習機能によるロールプレイとフィードバックが、問いの癖や思考の偏りに気づくきっかけになると述べました。たとえば「それは情報収集の質問で、相手に考えさせる問いではない」といった指摘を受けられることで、何を変えればよいかが具体化し、実行しやすくなるという説明です。
また、経営層への説明に関しては、参加者から「どのKPIに効くのか」との問いも寄せられました。山田氏は、導入効果を一律に語るのではなく、プロジェクト設計として「どの行動変容を狙い、どの経営価値に波及させるか」を事前に合意することが重要だと述べました。たとえば、上司部下の関わり方を変えることを目的に置くなら、離職率やエンゲージメント、コミュニケーション指標などと接続して設計する考え方が示されました。
最後に、自律的な活用をどう促すかという論点では、山田氏が「共有会」の有効性に言及しました。他の利用者の活用例やコツが見えることで、「それなら自分も使える」と最初の一歩が踏み出しやすくなるという見立てです。さらに、今回のようにフォローアッププログラムの中で“使う必然性”を設計しておくことが、利用の定着につながるという示唆が共有されました。
まとめ
本セミナーを通じて浮かび上がったのは、研修を「実施して終わる点の施策」ではなく、「実践と振り返りの循環として設計する」必要性です。小西氏は、ラーニングカルチャーの醸成という観点から、学びを現場に接続するには学習環境の設計が欠かせないと整理しました。山田氏は、AIコーチング「CoachAmit」によって内省と言語化を支援し、行動宣言へつなげるプロセスをスケーラブルに提供できる可能性を示しました。
重要なのは、テクノロジーを導入すること自体ではなく、どの行動変容を促し、その変化をどう現場に根づかせるかという設計思想です。相互学習とAIによる対話支援を組み合わせることで、受講者が「考え、試し、気づく」プロセスを回しやすくなる――。研修を成果につなげたい人事・人材開発担当者にとって、具体的な設計ヒントが得られる機会となりました。
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