
外国人材の定着をどう進めるか|マネジメントの実践ポイント
近年、少子高齢化に伴う人手不足を背景に、日本企業では外国人材の採用が広がっています。厚生労働省によると、2023年10月末時点の外国人労働者数は約204.9万人と、初めて200万人を超えました *1。 一方で、採用後に「なかなか定着しない」「現場でのマネジメントが難しい」といった課題に直面する企業は少なくありません。
本記事では、外国人材が定着しにくい背景を整理したうえで、活用・育成・定着を進めるための考え方と実践ポイントを解説します。
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外国人材の定着が難しい理由
日本企業では外国人材の採用が広がる一方で、採用後の定着に課題を抱える企業が少なくありません。厚生労働省の令和6年外国人雇用実態調査では、外国人労働者の雇用に関する課題として「日本語能力等のためにコミュニケーションが取りにくい」が43.9%、「文化、価値観、生活習慣等の違いによるトラブルがある」が20.9%となっており、言語面だけでなく、職場でのコミュニケーションや文化的な違いが課題になっていることが分かります *2。
実際には、外国人材にとって職場で直面する課題は、語学力だけではなく、仕事の進め方や評価のあり方、組織文化など、企業側のマネジメントの仕組みに起因していることも少なくありません。以下、職場で生じやすい行き違いの例をご紹介します。
仕事の進め方に関する暗黙ルールの多さ
例えば、誰かが困っている時に同僚が自然に手を差し伸べる行為は、日本の職場では日常的に見られることかもしれません。一方で、国や地域によっては、自身の職務範囲を明確に区切り、ジョブディスクリプションに記載された役割を着実に果たすことが重視され、所掌範囲以上のことは行うべきではない、という考え方もあります。そのため、手を差し伸べないことが、必ずしも非協力的であるとか、やる気がないことを意味するとは限りません。こうした仕事観の違いを考慮せず判断してしまうと、本人の意図と周囲の受け止め方にずれが生じやすくなってしまいます。
上司と部下の関係性の違い
国や地域によって、上司と部下の関係性に対する価値観は大きく異なります。例えば、日本企業では上司が細かく状況を把握し、途中経過を確認しながら進める「報連相」を重視する傾向があります。一方で、上司は目標や方向性を示し、進め方は個人に任せることが一般的な文化もあります。こうした違いを理解しないまま日本式のマネジメントを前提にすると、後者の文化的価値観を持つ人材には「過度に管理されている」と受け取られる可能性があります。
意思決定プロセスの違い
日本企業では、関係者との合意形成を重視しながら意思決定を進める傾向があります。稟議や関係者調整を経て決定するプロセスは、慎重に進めることで「社内の納得感を高めやすい」という強みがある一方で、スピードを重視する文化的価値観を持つ人材にとっては非効率に感じられることがあります。その結果、人によっては「主体性を発揮しにくい」「挑戦しにくい」と感じ、モチベーションの低下につながる可能性があります。
コミュニケーションスタイルの違い
日本企業では「阿吽の呼吸」や「空気を読む」ことを前提に仕事が進む場面が少なくありません。例えば、会議の場では、司会が進行し、発表者と質疑応答の時間を分け、会議の場で確認することと、個別に確認することを、暗黙のうちに分けて行動していることもあるのではないでしょうか。一方で、人によっては、誰かが話している途中でも、疑問や意見があれば、その場で積極的に発言し、議論を深めることが会議への貢献であり、評価されるべき姿勢であると考えられていることもあります。こうした発言の仕方を、ある人は積極性と受け止め、別の人は配慮やマナーに欠けると受け止めることがあります。これでは生産性の高い会議は成立しません。例えば、このような認識のずれを防ぐためには、会議の目的、進行ルール、ゴールをあらかじめ共有しておくことが重要です。
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また、日本では、入社時に報連相の教育を実施することが多くありますが、外国人材の中には「問題がない限り上司に報告する必要はない」という文化で育ってきた人もいるはずです。そのため、同じ教育を行う場合にも、「なぜ必要なのか」「どのような意味があるのか」、文化的差異がある人材にも腹落ちするように、教育内容を考えていく必要があります。
このような文化的差異を埋める教育がない状況では、例えば、本人は、良かれと思って自律的に仕事を進めたつもりでも、上司からは「途中経過の報告や相談が不足している」と評価されるなど、自分が期待したような評価を得られなかった、といった行き違いが生じる可能性があります。
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評価やキャリア観の違い
外国人材の中には、成果や役割の明確さ、キャリア成長の見通しを重視する人が少なくありません。出入国在留管理庁の令和6年度在留外国人に対する基礎調査でも、来日の理由として「スキルの獲得・将来のキャリア向上のため」が23.0%で最も高くなっており、成長機会への関心がうかがえます *3。 一方で、ジョブ型採用と評価制度が進んでいる企業もあるものの、運用面ではかつての日本企業にあったような、協調性や将来的な期待も含めて「総合的に判断する」考え方が残っている場合、外国人材に限らず、所掌範囲や評価基準が不明確な組織では、モチベーションは低下しやすくなります。キャリアパスが見えにくい状態も、定着を妨げる要因になります。定着を促すためには、評価の基準と成長の道筋、その時々の所掌範囲をできるだけ明確にし、本人が将来を描ける状態をつくることが重要です。
日本的企業文化への適応の難しさ
外国人材が組織に定着するためには、業務だけでなく、企業文化への理解と適応も欠かせません。例えば、日本企業では、時間厳守を重視すること、役割分担が明確でない場面でも周囲を見ながら柔軟に動くこと、忙しい時には担当外の業務も支え合うことなどが、職場で自然に期待される場合があります。こうした働き方は組織運営上の強みになることもありますが、文化的背景によっては、戸惑いや違和感につながることもあります。違和感があっても周囲に相談しづらい状態が続けば、働き続けることへの不安や迷いにつながる可能性があります。
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外国人材の定着を促進するマネジメントとコミュニケーション
外国人材が職場で能力を発揮できるかどうかは、日常のコミュニケーションに大きく左右されます。採用時に高い専門性を持っていても、指示の受け取り方や報告の仕方が噛み合わなければ、本来の力を発揮しにくくなります。ここでは外国人材マネジメントにおいて特に重要なコミュニケーションのポイントを紹介します。
指示やルールの明確化
多文化環境では、業務内容、役割分担、優先順位、納期、報告の頻度、評価基準などを言語化し、共有することが重要です。もしも指示した内容以上のことを期待するのであれば、「なぜそれが必要なのか」まで含めて、理解できるように明確に説明する必要があります。
何を目指し、どの状態を成果とみなすのかが明確になれば、本人も判断しやすくなり、上司との期待値のずれも減らせます。指示を細かくすることが目的ではなく、自律的に動けるための前提条件をそろえ、お互いの期待値と目指すべきゴールを共有することが大切です。
フィードバックの方法の見直し
日本では、相手への配慮から遠回しな表現で指摘することがありますが、文化によっては率直なフィードバックが好まれる場合もあります。成果と改善点をセットで具体的に示し、何を継続し、何を変えるべきかを明確に伝えることで、自分の期待役割を理解しやすくなります。ただし、伝える際には、できている点を先に伝え、そのうえで改善点を伝えること、改善点を伝える際は人前ではなく個人的に伝える配慮もポイントの1つです。
双方向コミュニケーションの促進
外国人材のマネジメントでは、一方的な指示だけでなく、意見交換ができる環境をつくることが重要です。ただし、上司に意見することが一般的ではない文化的価値観を持つ人もいます。そのため、なぜ意見を求めるのか、どのような観点で話してほしいのかを明確に伝える必要があります。会議や日常業務の中で双方向のコミュニケーションを促すことは、問題の早期発見と信頼関係の構築につながる重要なアクションです。
外国人材の定着を実現する組織づくりのポイント
外国人材の定着は、現場の上司や本人の努力だけでは実現できません。企業の組織文化や制度が、外国人社員にとって働きやすく、力を発揮しやすいものであるかどうかが大きく影響します。組織の風土を見直し、多様な価値観を受け入れられる職場づくりが重要になります。
また、外国人材の定着には、日本人社員の意識変化も欠かせません。日本人にとっては、これまでのやり方を基に仕事を進めることが自然になりやすく、意識しないまま日本式の働き方を前提としてしまいます。その結果、外国人材にとっては、不安や働きにくさを感じる場面が多くなってしまう可能性があります。
異文化理解研修やグローバルコミュニケーション研修などを通じて、より多くの社員が多文化環境で働く力を高めることが重要です。そうした力は、外国人材の定着を支えるだけでなく、組織全体の協働力や新たな価値創出にもつながります。
具体的な取り組みの例やプログラムの内容については、以下のサービス紹介ページも参考にしてください。
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外国人材の定着を実現する組織づくりを進めるためには、採用段階での受け入れ設計、現場管理職のマネジメント力向上、制度面の整備を一体で進めることが重要です。以下にそれぞれのポイントを解説します。
採用段階から適応とキャリア支援を設計する
外国人材を受け入れ、定着と活躍につなげるためには、採用・育成・定着を一体として設計することが重要です。企業文化や働き方、評価の考え方、配属後に期待する役割を事前に丁寧に伝えることで、入社後のミスマッチを減らしやすくなります。
オンボーディングの段階では、業務の説明だけでなく、社内で困ったときに誰に相談すべきかまで含めて伝えることをお勧めします。また、日本企業ではOJTによる教育が主流ですが、外国人材に対しては、十分に機能しない場合があります。効果的に機能させるためには、OJT担当者が異文化理解を深めることと、OJT担当者自身がキャリアパスの手本となるような存在であることも重要です。
会社からも、自律的な学習を支援し、OJT担当者にはキャリアと成長を後押しする知識・スキルと姿勢を身につけてもらいましょう。
また、当初のきっかけが人手不足への対応であったとしても、受け入れた人材を長期的に組織の成長を支える人材として育成する視点が欠かせません。企業と社員が相互に理解を深め、信頼関係を築きながら成長していける関係を目指すことが、定着にとどまらず、社員が成長機会を得ながら長期的に活躍できる状態をつくることにもつながります。
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管理職のマネジメント力を高める
外国人材の定着と活躍を左右する最大の要素の一つは、現場管理職のマネジメント力です。現場が多様な価値観を前提にマネジメントできなければ、制度を整えても実際の職場では機能しません。管理職には、異文化理解だけでなく、目標設定の仕方、フィードバックの方法、評価の伝え方、期待値調整の方法などを体系的に学ぶ機会が必要です。多様な人材を活かせる管理職が増えることは、外国人材対応にとどまらず、組織全体のマネジメント力向上にもつながります。
制度面の整備で安心して働ける環境をつくる
外国人材が安心して働ける環境を整えるためには、制度設計も重要です。例えば、職務内容を明確にするジョブディスクリプションの整備や、評価基準、キャリアパスの可視化は、その代表例です。役割と責任が明確になれば、外国人社員は自分に何が期待されているのか、自分の成果がどのように評価されるのかを理解しやすくなります。さらに、メンター制度や相談窓口などのサポート体制を整えることで、業務だけでなく生活面や文化面の不安も相談しやすくなり、心理的な安心感につながります。
まとめ
外国人材の受け入れと定着は、単なる採用施策にとどまる取り組みではありません。採用後にどのように力を発揮してもらうか、そのために企業側がどのようなマネジメントや組織づくりを行うかが問われるテーマです。文化や価値観の違いを理解し、仕事の進め方や評価、コミュニケーションの前提を共有できれば、行き違いは減らせます。
外国人材が働きやすい環境を整えることは、結果として、日本人社員にとっても働きやすく、成長しやすい組織づくりにつながります。多様な人材がそれぞれの力を発揮できる組織をつくることは、これからの企業にとって持続的な成長を支える重要な取り組みといえるでしょう。
弊社では、異文化理解アセスメントや研修プログラムを提供しております。 事例の紹介なども可能です。 こちらのフォームからどうぞお気軽にご相談ください。
FAQ
Q1. 外国人材の受け入れと育成で最も重要なポイントは何ですか?
A. 外国人社員に日本式の働き方を一方的に求めるのではなく、仕事の進め方や評価の考え方、報告や相談の意味を明確に伝え、共通認識をつくることです。例えば、途中経過をこまめに報告することが求められるのであれば、その理由まで含めて伝える必要があります。報告が、進捗確認だけでなく、上司からのフィードバックを通じた成長支援の機会でもあると共有できれば、本人にとっても納得感のある行動につながりやすくなります。
Q2. 外国人材活用は企業にどのようなメリットがありますか?
A. 外国人材の活用は、人手不足への対応にとどまらず、企業の競争力を高める取り組みとして位置づけられます。異なる文化背景を持つ人材が加わることで、多様な視点が組織に取り入れられ、既存のやり方を見直すきっかけが生まれやすくなります。また、海外事業の推進やグローバルな顧客対応、折衝においても、大きな力となります。多様な人材が活躍できる環境を整えることは、組織全体の柔軟性や対応力の向上にもつながります。
Q3. 外国人材マネジメントで注意すべきことはありますか?
A. 業務ルールや期待役割を明確にすることです。暗黙のルールに依存すると誤解が生まれやすくなります。業務内容、評価基準、報告の頻度、意思決定の進め方などを明確にし、共有することが重要です。
多様性は適切にマネジメントされなければ摩擦の原因にもなります。適切にマネジメントすることで、多様性を組織の「強み」に変えることが可能になります。
Q4. 日本人社員はどのように対応すべきですか?
A. 異文化理解を深めることが重要です。「ここは日本だから」という無意識のマインドや日本の常識にとらわれすぎては多様性がもたらすメリットを享受することはできません。日本人・外国人というくくりでない、一人ひとりが自身の能力を十分に発揮し、活躍できる組織文化と職場づくりが理想です。
Q5. 外国人材を定着させるための企業施策にはどのようなものがありますか?
A.オンボーディングプログラム、評価制度とキャリアパスの可視化、メンター制度、相談窓口の設置、異文化マネジメント研修などが有効です。採用後のサポート体制を整えることで、外国人社員が組織に適応しやすくなります。
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参照
*1 厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)(令和6年1月26日(金)発行)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37084.html
*2 厚生労働省「令和6年外国人雇用実態調査」 (令和7年8月29日(金)発行)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_61317.html
*3 出入国在留管理庁「令和6年度 在留外国人に対する基礎調査 報告書」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001436052.pdf
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