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管理職に向いている人はどう見極める? 人事が押さえたい選抜・育成・配置のポイント

管理職は、組織成果を左右する要のポジションです。

人事や任命者の立場から見れば、「向いている人を選びたい」「将来の管理職候補を意図的に増やしたい」と考えるのは自然なことです。 一方で、厚生労働省の資料では、管理職昇進を望まない理由として、責任の重さ、仕事量や長時間労働への不安、現在の業務を続けたい意向、部下指導への不安などが挙げられています。 今必要なのは、管理職適性を本人の意欲や性格、現ポジションでの個人業績に依る「印象論」で語ることではなく、職務要件、育成機会、制度設計、キャリア対話を一体で設計することです。

本稿では、任命者の視点から、管理職に向いている人の見極め方と、向いている人を増やす実務を整理します。

目次[非表示]

  1. 1.管理職に向き不向きが語られるのは自然なこと
    1. 1.1.よくある「向いていない」の正体
    2. 1.2.人事が最初に見るべきポイント
  2. 2.背景には、管理職を難しくしている時代の変化がある
    1. 2.1.プレイングマネジャー化の負荷
    2. 2.2.時代に合った管理職像への更新
  3. 3.任命者の視点で見る「管理職に向いている人」とは
    1. 3.1.見るべきは「仕事」と「人」の両面
    2. 3.2.性格だけで決めない
  4. 4.向いている人を増やすには、選抜前の設計が重要
    1. 4.1.経験設計で候補者の裾野を広げる
    2. 4.2.動機づけは後から強化することができる
  5. 5.任命後にミスマッチが見えても、トレーニングで補える
    1. 5.1.補いやすいのは「行動スキル」
    2. 5.2.ただし、制度と支援が伴わないと定着しない
  6. 6.制度設計とキャリアの複線化まで含めて整える
    1. 6.1.制度設計で「管理職になりたい」を支える
    2. 6.2.昇進だけが正解ではない
  7. 7.まとめ
  8. 8.FAQ
  9. 9.サイコム・ブレインズの関連ソリューション
  10. 10.参照・出典

管理職に向き不向きが語られるのは自然なこと

管理職に向き不向きがある、と現場で感じられるのは自然です。なぜなら、管理職は「自分が成果を出す仕事」から、「他者を通じて成果を出す仕事」へと重心が移る役割だからです。個人実績が高い人が、そのまま優れた管理職になるとは限りません。ここで重要なのは、向き不向きの感覚を否定せず、印象論のままにしないことです。人事は、その感覚を職務と行動に翻訳する必要があります。

よくある「向いていない」の正体

「自信がない」「やりたがらない」「今の上司を見て魅力を感じない」といった反応は、意欲不足だけでは説明できません。厚生労働省の資料では、管理職昇進を望まない背景として、責任の重さ、負荷増、現在業務への愛着、部下指導への不安が示されています。本人の問題に見える言動の裏に、役割設計や経験不足の問題が隠れていることは少なくありません。

人事が最初に見るべきポイント

人事が最初に確認したいのは、「役割そのものへの拒否」なのか、「今見えている管理職像への拒否」なのかです。前者と後者では打ち手が異なります。後者であれば、過重負荷や支援不足を見直すことで候補者が増える余地があります。向き不向きの議論は、選抜のためだけでなく、職務改善の入口にもなります。

▶表1:「向いていない」を人事が読み替える視点

見え方

背景要因

人事の確認点

自信が無い

評価・育成経験が不足

小さなマネジメント経験があったか

乗り気でない

負荷や働き方への不安

権限・業務量・支援は妥当か

向いていない印象

行動定義が曖昧

印象でなく行動で見ているか 

向き不向きの議論は有効ですが、印象論のまま扱わず、背景要因に翻訳して見ることが重要です。⇒ポイント:「適性があるか」より先に、「何にためらっているか」を分解して把握します。

背景には、管理職を難しくしている時代の変化がある

管理職候補が慎重になるのは、個人の弱さだけではありません。管理職を取り巻く環境が、以前より複雑になっているからです。JILPTのヒアリング調査では、管理職が進捗管理、労働時間管理、人事評価、育成、健康配慮など多面的な役割を担いながら、自らもプレイヤー業務を持つ実態が示されています。

プレイングマネジャー化の負荷

現場の管理職は、成果責任だけでなく、働き方改革やコンプライアンス対応のしわ寄せを受けやすい立場でもあります。JILPTは、管理職が多忙で長時間労働になりやすく、権限不足にも苦しむ例を整理しています。候補者が昇進に前向きになれないのは、役割そのものが重く見えるからでもあります。

時代に合った管理職像への更新

厚生労働省は、働き方の多様化に応じたきめ細かな雇用管理の重要性を示しています。今の管理職には、指示命令だけでなく、対話、個別配慮、育成、調整が求められます。つまり、管理職像を更新しないまま選抜だけ厳しくしても、候補者は増えにくいのです。

管理職の難しさは個人特性だけではなく、役割環境の変化によっても強まっています。⇒ポイント:候補者評価の前に、「現代の管理職にどのような負荷が増えたか」を棚卸しします。

任命者の視点で見る「管理職に向いている人」とは

管理職に向いている人は、カリスマ的な人ではありません。任命者が見るべきは、職務に必要な行動です。アメリカの研究機関であるOPMはジョブアナリシスを、仕事の内容・文脈・要件を整理し、職務遂行に関わる能力を特定する手続きと説明しています。厚生労働省の職業能力評価基準も、「成果につながる職務行動例」を軸に能力を整理しています。

見るべきは「仕事」と「人」の両面

優先順位づけ、意思決定、委任といった仕事推進の力に加え、傾聴、対話、育成、衝突調整といった対人面の力が必要です。OPMSupervisory Guideでも、対人スキル、問題解決、意思決定、口頭コミュニケーションなどが重要な要素として示されています。個人成果だけでは、管理職適性を測り切れません。

性格だけで決めない

リーダーシップ研究では、外向性や誠実性などとリーダーシップの関連が報告されていますが、特性だけで適性を決め切れるわけではありません。動機や経験、支援の有無も重要です。人事実務では、性格検査は参考情報にとどめ、観察可能な行動を中心に評価するのが妥当です。

2:任命者が見たい管理職候補の行動

観点

対象の行動 

期待できること

仕事を進める力

優先順位づけ、決断、委任

チーム成果の安定化

人に働きかける力

傾聴、対話、育成、調整

関係品質と定着の向上

自己を整える力 

誠実さ、学習姿勢、回復力

変化環境での再現性

管理職適性は、印象ではなく観察可能な行動に落とし込むと選抜精度が高まりやすくなります。⇒ポイント:昇格基準を「実績中心」から「行動+実績」へ広げます。

向いている人を増やすには、選抜前の設計が重要

本当に難しいのは、「向いている人を見つけること」より、「向いている人を増やすこと」です。候補者は昇格直前に突然生まれるわけではありません。小さな委任、後輩育成、会議進行、評価補助、プロジェクト責任者といった経験を、計画的に積ませる必要があります。能力開発基準や評価シートは、その土台づくりに使いやすいツールです。

経験設計で候補者の裾野を広げる

管理職候補者プールを厚くするには、将来必要な行動を早めに経験させることが有効です。評価者補佐、1on1の試行、後輩指導、部門横断プロジェクトのリードなどは、適性の見極めにも育成にもなります。経験のない人を、昇格審査の場だけで見極めるのは限界があります。

動機づけは後から強化することができる

Baduraらの研究は、リーダーになりたいという動機を複数の構成で捉える重要性を示しています。つまり、「最初から管理職志向が高い人だけを選ぶ」より、役割の意味づけや試行機会を通じて動機を育てていく視点が必要です。任命者が行う対話は、選抜だけでなく動機形成にも関わります。

候補者は選抜だけでは増えません。経験設計と対話を重ねることで、母集団を厚くできます。⇒ポイント:候補者育成は「研修の実施」だけではなく「経験設計+対話」を通じて進んでいきます。

任命後にミスマッチが見えても、トレーニングで補える

管理職登用後に「思ったより難しそうだ」と分かっても、即座に不適任と決める必要はありません。リーダーシップ開発のメタ分析では、研修や開発施策が学習や行動に一定の効果を持つことが示されています。面談、フィードバック、委任、優先順位づけなどは、比較的トレーニングで伸ばしやすい領域です。

補いやすいのは「行動スキル」

1on1や育成面談の進め方、フィードバックの質、任せ方、会議での問いかけなどは、練習と振り返りで改善しやすいテーマです。1on1の基本スキルだけでなく、注意点、またロールプレイなども実施できる設計になっているなど、実施する研修の内容も重要な要素です。

ただし、制度と支援が伴わないと定着しない

研修の効果は、設計や実践機会に左右されます。登用後の管理職に、上位者の伴走、振り返りの場、過重負荷の調整がなければ、学んだ行動は定着しにくくなります。人事は「研修を実施した」ではなく、「現場で行動が回り始めたか」までを見たいところです。

3:任命後に補いやすい領域

領域 

補いやすさ

主な打ち手

1on1・面談

高い

ロールプレイ、同席、振り返り

委任・優先順位づけ

高い

ケース演習、OJT、伴走

感情コントロール

中程度

コーチング、内省、負荷調整

ミスマッチが見えても、行動スキルは比較的補いやすい領域です。重要なのは研修と現場支援の接続です。⇒ポイント:登用して3か月後に行動課題を特定し、支援策を個別化できるとなお良いです。

制度設計とキャリアの複線化まで含めて整える

管理職育成が機能する会社は、能力開発だけで終わりません。役割定義、権限、評価、キャリアルートまで一体で設計しています。JILPTの調査では、管理職の負荷の重さや権限不足を指摘しています。どれほど良い候補者でも、役割が曖昧で、権限が弱く、プレイヤー業務が過大なら機能しにくくなります。

制度設計で「管理職になりたい」を支える

昇格前に期待役割を言語化し、何を任せるか、どう支えるかを明確にすることが大切です。評価指標も、個人売上だけでなく、育成・委任・チーム運営を含めて見直す必要があります。職業能力評価シートやキャリアマップは、期待役割と成長の道筋を可視化するうえで活用しやすい枠組みです。

昇進だけが正解ではない

厚生労働省のキャリアマップは、能力開発の標準的な道筋を示すものです。今は、管理職だけが成長のゴールではありません。専門職、プロジェクト責任者、高度専門人材などの複線的なルートを示すことで、候補者本人との対話は前向きになります。その上で、管理職候補には「なぜあなたなのか」「どんな支援があるのか」を丁寧に伝えることが有効です。

管理職登用は、選抜だけでなく制度・役割・キャリアの設計まで整えることで前向きに機能します。⇒ポイント:昇格打診の前に、「期待役割・支援策・代替キャリア」を整理します。

まとめ

管理職に向いている人を見極めたい、増やしたいという課題は、個人の資質論だけでは解決できません。見るべきは、仕事を進める力、人に働きかける力、自己を整える力です。同時に、候補者が前向きになれない背景には、管理職を難しくしている時代の変化があります。だからこそ、選抜前の経験設計、任命後のトレーニング、制度設計、複線型キャリアの提示までを一体で考える必要があります。管理職登用は「向いている人を探すこと」だけでなく、「向いている人が育ち、活躍できる環境を整えること」でもあります。

FAQ

Q1. 管理職に向いている人は、性格検査で見極められますか。

性格特性は参考情報にはなりますが、それだけで決め切るのは難しいです。研究では外向性や誠実性との関連が報告されていますが、動機や経験、支援の有無も成果に影響します。実務では、性格検査は補助情報とし、観察可能な行動を中心に判断するのが好ましいです。

Q2. 管理職候補が昇進を渋る場合、どう対応すべきですか。

まずは説得より対話です。何が不安なのか、負荷なのか、役割理解なのか、キャリア志向なのかを分けて聞きます。そのうえで、期待役割、支援策、試行機会を示すと納得感が高まりやすくなります。複線型キャリアも同時に示すと、押しつけ感を弱められます。

Q3. 優秀なプレイヤーを管理職に上げればよいのでしょうか。

必ずしもそうではありません。個人成果の高さと、委任・育成・対話・調整の力は別です。管理職適性は、仕事を進める力と、人を通じて成果を出す力の両面で見る必要があります。実績だけで上げると、本人も組織も苦しくなることがあります。

Q4. 管理職に向いている人を増やすには何が有効ですか。

最も有効なのは、昇格前に小さなマネジメント経験を計画的に積ませることです。後輩育成、1on1、評価補助、会議進行、プロジェクト責任者などの経験は、適性の見極めにも育成にも役立ちます。選抜だけで候補者を増やすのは難しいため、経験設計が要になります。

Q5. 任命後にミスマッチが分かったら手遅れですか。

手遅れとは限りません。面談、フィードバック、委任、優先順位づけなどの行動は、トレーニングで改善しやすい領域です。大切なのは、技能不足なのか、役割への納得不足なのかを見分けることです。前者なら育成、後者なら配置やキャリア対話の見直しが必要です。

Q6. 管理職候補向けの施策を、まず何から始めるべきですか。

最初の一歩として取り組みやすいのは、候補者の行動要件を定義し、1on1や育成面談など実務に近いテーマから支援することです。加えて、評価基準と期待役割を言語化すると、育成と選抜がつながりやすくなります。

サイコム・ブレインズの関連ソリューション

まなラン:1on1トレーニング

映像教材:コーチングと人材育成

参照・出典

* 厚生労働省『平成30年版 労働経済の分析』2018
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01633.html

* 労働政策研究・研修機構(JILPT)『資料シリーズNo.254 管理職ヒアリング調査結果管理職の働き方と職場マネジメント2022年 
https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2022/254.html

* 厚生労働省『職業能力評価基準』https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/ability_skill/syokunou/index.html


* 厚生労働省『職業能力評価シートについて』
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08021.html

* 厚生労働省『キャリアマップについて』
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07792.html

* U.S. Office of Personnel Management, “What is a job analysis?”
https://www.opm.gov/frequently-asked-questions/assessment-policy-faq/job-analysis/what-is-a-job-analysis/

* U.S. Office of Personnel Management, “Supervisory Guide”
https://www.opm.gov/policy-data-oversight/classification-qualifications/general-schedule-qualification-standards/specialty-areas/supervisory-guide/

* Judge, T. A. et al., “Personality and Leadership: A Qualitative and Quantitative Review” 2002
https://home.ubalt.edu/tmitch/642/Articles%20syllabus/judge%20bono%20llies%20gerhardt%20pers%20and%20ldrship%202002.pdf

* Badura, K. L. et al., “Motivation to Lead: A Meta-Analysis and Distal-Proximal Model of Motivation and Leadership” 2020
https://researchconnect.suny.edu/en/publications/motivation-to-lead-a-meta-analysis-and-distal-proximal-model-of-m/

* Lacerenza, C. N. et al., “Leadership Training Design, Delivery, and Implementation: A Meta-Analysis” 2017
https://doerr.rice.edu/sites/g/files/bxs5941/files/2026-01/Leadership%20Training%20Design%2C%20Delivery%2C%20and%20Implementation.pdf

大槻 朝日香
大槻 朝日香
サイコム・ブレインズ コンサルタント 東京外国語大学卒業。比較教育学を専攻し、多民族国家における国民教育や民族教育の在り方について学ぶ。卒業後は法人営業職に4年従事したのち、シンガポールにてさらに法人営業として経験を積む。当時、現地で実施されていたサイコム・ブレインズの異文化研修の存在を知る。帰国後、大手ITグループ企業にて人事向けアウトソーシングプロジェクトの運営リーダーを務めるなかで、マネジメント層や現場リーダー・新人向けなど、組織における人材育成の重要性を実感。人材育成・研修の領域を自身のキャリアの軸とすることを決意し、当社に入社。 場を読み、一歩先を考える観察眼と適応能力の高さを生かして、クライアントのありたい姿を実現する研修を提供すべく邁進中。業務外では愛猫と、コロナ禍より始めた社交ダンスで心身ともにリフレッシュしている。国家資格キャリアコンサルタント取得。

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