
今の時代に求められるビジネススキルとは? 20代・30代別スキルマップ
DXの進展、AIの業務への導入により、企業の業務構造と人材に求められるスキルは急速に変化しています。 従来業務の多くが自動化され、個人の価値は「AIをどう活かすか」に移行しつつあります。 特に20代・30代は、キャリア初期・中堅期それぞれで「学ぶべきスキル」と「果たすべき役割」が大きく変わっています。 本稿では、企業の実例を交えながら、今の時代に求められるビジネススキルを整理。 AI・DX時代において自律的に成長するためのスキルマップと、その効果的な習得ステップをご紹介します。
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DX・AIがもたらす構造転換
デジタル技術の浸透は業務の効率化にとどまらず、業務構造・役割・評価基準そのものを急速に変化させています。 特にこれらの技術によって従来の業務が削減ないし変化する割合の多い、若手中堅クラスのスキル変化を理解することは、人材育成において急務といえるでしょう。
人にしかなし得ない「データ解釈」「戦略化」が鍵に
日本企業では2020年代に入り、AI・RPA導入が急拡大しています。 エイトレッドが2025年にバックオフィス業務に携わる担当者 110 名を対象に行った調査では、76.4%が「生成AIをバックオフィス業務で活用中 (自動化または効率化目的)」と回答。 単純業務が減少する一方で、「データを解釈し、戦略に落とす力」へのニーズがさらに高まっています。
この変化は職種を問わず起きており、営業職はデータドリブン提案へ、製造職はIoTデータ分析へ、管理職はAI活用による意思決定支援へとシフトしています。 育成設計では、単にデジタルツールを理解させるにとどまらず、「データから価値を創る思考力育成」に軸を置くことが必要となります。
評価基準の焦点変化
AIは「早さ・正確さ」で人間を凌駕します。 そのため人材評価の焦点は、「判断・共創・倫理観」といった人間ならではの力に移行しています。 PwCの2024年CEOサーベイでは、CEOの56%が生成AIによって従業員の作業時間が効率化したと回答し、32%が収益の増加、34%が利益率の向上を報告しています。 AIへの初期投資のリターンが明確になる中、経営層が重視するスキルの第1位は「クリティカルシンキング」でした。 デジタルスキル単体ではなく“思考と連動するスキル”が求められています。
こうした変化の中、評価制度や研修体系は「(デジタル含む)スキル習得・保有」をまず目的にするのではなく、自組織におけるデジタルの価値を最大化した「価値創出プロセス」の再定義・促進を行ったうえで構築する必要があります。
20代に求められる新たな基礎スキル ― 自動化時代の実務変化
DX・AIの進展により20代社員が従来多く担っていた定型業務は大幅に自動化され、代わってAIを使いこなす“思考の基礎体力”が問われるようになりました。 AIが不得意な、人間特有の能力を着実に成長させると共に、デジタルツールの活用を通じて知見を得、素早く改善サイクルをまわすための素地づくりが重要となります。
人ならではの創造性や探求力、仮説の策定や改善立案の力
AI・RPAによる業務効率化はこの数年で大きく、上場企業を中心に進んでいます。 ソフトバンク株式会社では、RPA導入により年間4,500人分の工数削減を達成。 報告資料や契約入力など、かつて若手社員が担っていた業務がAI化され、彼らはAIの分析結果を基に改善提案を行う役割へと変化しました。
またロート製薬株式会社では、DX推進により若手社員が低コード開発で業務アプリを自作する動きが拡大。 単なるデジタルスキルではなく、課題を発見し解決する探究姿勢が評価されています。
▶表1:20代に求められる基礎スキル
スキル領域 | 具体的スキル | 目的 |
|---|---|---|
AIリテラシー | ChatGPT・RPA理解 | AIの特性を踏まえた使い分け |
情報編集力 | AI出力の整理 | 提案資料に活かす編集センス |
探究心 | 「なぜ?」を深掘る姿勢 | 本質的な課題発見に直結 |
また広告業界でも生成AIによる初稿作成が標準化されつつあり、若手社員は「AIを補うクリエイティブ視点」や「仮説設定力」が評価軸となっています。
AIリテラシーは技術を使いこなすうえで最低限の知識として、企業が評価軸としている他スキルは、AIがまだ不得意な人間に強みがあるものや、AIにより大量のデータが得られるようになったことでより重要性が増したスキルといえます。
広告業界を例にとると、AIは大量のデータからパターンを抽出し、効率的に広告素材を生成できますが、文脈や文化的背景を踏まえた表現力など“人間らしい創造性”はまだ苦手。 生成AIが用意した広告文や画像の“たたき台”を人間がブランドトーンや文脈に合わせて調整する、という協働作業が必要です。 さらにAIは過去のデータに基づくため、既存の枠組みを超える“飛躍”も不得意のため、直感や遊び心を活かした意外性やユーモアのある発想も、重視されるスキルとなります。 加えて、人間でないとできない高度な業務、例えば長期的な視点と感情的なつながりを意識したブランドの世界観やストーリー性の構築なども、これまでより幅広い人材に、より高いレベルで求められています。
またAIによる自動化が進み大量のデータが効率よく得られるようになるほど、広告の運用者には、施策目的に合致した成果を得るための戦略的思考が重要となります。 クリック率などのデータからの“意味”の読み解き、施策目的をもとに整合性のあるKPIの策定など、起点としての仮説を持ったうえでPDCAをまわして改善策を立案し、AIの活用設計を評価・修正できることが求められるのです。
20代育成のポイント:技術を活用した業務改善経験
20代社員においては、まず業務指示を受ける前に「AIができる部分」を判断して目的に資する最適な業務をデザインするとともに、仮説を立てて継続的に検証・改善する力を育てることが重要です。
例えば新入社員研修にAIを使って1日業務を再設計する課題を組み込むことで、AIリテラシーの向上だけでなく、業務改善意識や仮説思考力の強化を見込むことができます。 具体的には、まずインプットセッションでChatGPTなどの生成AIの仕組みや活用事例、業務改善の考え方を理解したうえで、実践ワークショップとして自分の業務をタスク単位で洗い出し、どの業務にAIを使えば効果的かを検討、AIに指示を出して業務を再構築します。
若手はAI活用への心理的なアレルギーは一般的に低いですが、一方で業務の目的をおさえて効率化や価値創出の視点で改善する経験値は低いため、AIツールをどう使えば効果的かを体感的に学ぶことにより業務改善マインドの醸成や、業務の目的理解やAI活用判断を通じた論理的思考や仮説構築力の素地習得に繋げることができます。
30代に求められる「翻訳力」と「共創力」
AIが示す情報を組織に翻訳し、人を動かす力が30代に求められます。 20代に求められるAIを業務効率・成果に繋げる基本的なスキル・考え方をおさえたうえで、事業・組織全体の価値創出を目指すため、技術と現場の橋渡し役としての存在感が高まっています。
AIの成果物を“意味づけ”する翻訳力
京セラドキュメントソリューションズ株式会社では、AI音声エージェント導入により顧客対応を自動化。 30代のリーダー層は、AIが抽出したデータを分析し、対応フローを再設計する役割を担っています。
またロート製薬では、AIが分析したデータを現場に伝える際、「どんな判断が必要か」を30代社員が翻訳。 AIが生み出す“数字”を“意味”に変える力が人材評価の要点になっています。
20代と同様に仮説構築・改善立案力が重要といえますが、20代のそれらスキルの適応がほぼ「与えられた業務」を起点としていたのに対し、30代の中堅層では、顧客や市場の動きなどの多角的・複雑なデータをもとに、より高度な視点で中長期の影響を仮説構築し、これまでない業務を含め、新しいアクションを提言し組織を動かすことが求められているといえるでしょう。
共創を導くファシリテーション力
いくらデジタルツールがパワフルになっても、それをもとに新しいアクションにつなげ、トライ&エラーを経て活用方法を進化させていくことができるかは、組織によって大きく異なります。 この鍵となるのが30代の中堅層であり、組織に知見が少ない中で新たなツールの活用を進めるには、チーム間の調整・共創を導くファシリテーション力が重要になっています。
ソフトバンクでは、AI活用部門横断会議において30代社員が“AIの共通言語化”を担当し、部門ごとの理解を橋渡しし、議論・合意形成と改善実行をリードしています。
30代育成のポイント:事業/組織への新提言・ファシリテーション経験
筆者がコンサルタントとして企業のDX・AIによる業務改革プロジェクトに参加していた際、最も苦労したのは、新しいツールから意味を導き出し、事業・組織的価値の高いアクション提言を練り上げられる中核社員の不在でした。 デジタルツールの使い方習得や業務・チーム単位での活用は、外部の有識者から必要に応じて支援を得ながら、現場の社員自身で一程度、達成することができます。 しかし、DXの本来目的である大きな価値創出を目指すなら、特定のチームの業務を超えた全社的な目的に資する提言が必要であり、そのためのデータの”意味づけ”は、デジタルツールに詳しい若手社員では荷が重いのが実情でした。
データの背景・その理由を推測できるほど現場知識があり、かつ事業への全体感をもって、価値が高くなりそうな提言の仮説を立案できる。 そうした中核社員を育成するには、実際に部署を超えた協働を経験させて手本から学ぶことができればベストですが、社内にそれら経験の場が少ない場合、部署横断会議での提言やファシリテーションの実践練習を積ませることが重要です。 どのような提言内容、言い方・メッセージで、どの部署のどの立場からどんな反応がきたか、それはなぜか、どう改善すべきか、を考えプレゼンや会議ファシリテーションを繰り返すことで、組織全体を動かすことのできる意味づけのしかた、視点の異なる関係者を動かすための多彩なコミュニケーションの作法(プロトコル)を徐々に習得することができます。
全体感を持ったトップ権限者(DX推進本部長、担当執行役など)と現場のツール活用・作業社員の間を橋渡しする管理職や中堅が少数でもいるかどうかは、DXプロジェクトの進捗を大きく左右するといっていいでしょう。 特に業務の専門性が増して、優秀でも特定のファンクションしか経験していない中堅層が増えがちな現状では、トレーニングでこうした実践練習を積ませる重要性はますます大きくなると感じます。
重要性が高く習得が難しいスキル:思考の筋力と関係構築力
ここまで様々なAIが担保できない重要スキルを紹介してきましたが、特に一朝一夕の習得が難しく、その成熟度をHRDが優先的にモニターする必要があると感じるのは、非定型問題に対応する“思考の筋力”と“関係構築力”です。
クリティカルシンキング
AIは“最適解”を導くことはできますが“正しい問い”は立てられません。 したがって、人間にしかできない問いづくり=クリティカルシンキングの重要性は、問いが誤ればその後の労力がすべて無駄になる意味でも、特に育成の焦点とすべきです。 失敗の構造を言語化し、次の打ち手を考える力が、ビジネスパーソンのキャリアの差を今後ますます大きくしていくでしょう。
リレーションシップマネジメント
AIでは代替できない「共感力・観察力」は社員のエンゲージメントに、ひいては組織成果に影響するとされています。 一方で、ハイブリッドワークの進むなか、業務の中で自然と信頼関係構築の練習を行うことが難しくなっている企業も多いようです。 業務での習熟機会が失われがちな状況では、研修での「失敗共有セッション」や、「1on1の対話設計」練習を行うことをおすすめします。
効果的な習得のための順序とポイント
スキル習得は“順番”が重要です。 まずはすべての基本、”筋力”ともいえる基礎思考力 → ツールを知り活用するためのデジタル活用力 → 一定のビジネス経験が必要な共創実践力の順で伸ばすと定着しやすくなります。
▶表2:スキル習得の三段階
段階 | スキル領域 | スキル/学び方例 |
|---|---|---|
Step1 | 思考の基礎 | メタ認知・クリティカルシンキング |
Step2 | デジタル基礎 | AI・RPA・データ可視化 |
Step3 | 共創実践 | チーム課題解決・AI協働プロジェクト |
研修後すぐに実務で活用することが重要ですので、部署協働プロジェクトなどぴったり合致するものが社内にない場合、アクションラーニングで模擬プロジェクトを行うことも視野にいれてください。 世代・部署を超えた共創経験が重要ですので、ピアラーニングの場もふんだんに設けることをおすすめします。
また、社内事例の少ないツールや知識を学ぶ際には、自分のものとするため練習&内省の習慣化が重要となります。 「今日のAI活用で得た学び」といったテーマで日報に記録するなど、習慣的に行う業務に内省機会を組み込んでください。
チャレンジと乗り越え方
これらのスキル習得において多い課題は、「継続できない」「成果が見えにくい」「上司が変化を理解しない」の3点です。 特にデジタル基礎系の新たなスキルは、現業務では活用機会がないケースも多いため、成果が見え辛くなり、上司が評価しにくい、という傾向があります。 期待成果・KPIを定義のうえ全部署で共有し評価する、組織的な取り組みを行いましょう。
モチベーション低下への対処
スキル学習が「評価と連動しない」と感じると継続しづらくなります。 企業は成果指標を「行動変化」や「AI活用提案数」などに再設定することで、努力を可視化することが重要です。
上司・部門間ギャップの克服
学びを現場に広げる際、上司が旧来型の成功体験に固執するケースもあります。 小規模なAI活用の成功事例を積み上げ、「変化の実利」を見せることが効果的です。 短期的には、学び成果を「可視化→共有→称賛」する文化を制度化しましょう。
まとめ
AI・DX時代のスキル変化は、単なるデジタルツール対応ではなく「思考と関係性の再設計」です。
20代はAIと協働する基礎力(AIリテラシー+探究心)を育む
30代は翻訳力と共創力を発揮し、組織変革を推進する
習得順序は「思考 → デジタル → 共創」が効果的
継続には成果の可視化とピア学習が有効
これらを踏まえ、人材育成の設計を“個のスキル”から、新たなツール活用・成功モデル創出に向けた“組織の学習力”へ転換することが、現代の育成戦略の鍵になるといえるでしょう。
参照・出典
PRTIMES 「【バックオフィス業務のAI活用実態を調査】生成AIを業務に活用している担当者は約8割に 約7割が「文書の確認・校正・チェック」でAIの効果を実感」 (2025年)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000298.000050743.html
- Automation Anywhere「ソフトバンク株式会社 導入事例」 (2023)
https://www.automationanywhere.com/sites/default/files/internal-assets/case-study-softbank_en.pdf - Macnica「ロート製薬株式会社 DX推進事例」 (2023)
https://www.macnica.co.jp/en/business/ai_iot/cases/145952/ - transcosmos「京セラドキュメントソリューションズ株式会社 事例」 (2024)
https://www.trans-cosmos.co.jp/english/customercase/customer/kyocera.html - PwC 「Global CEO Survey 2024 Reinvention on the edge of tomorrow」
https://www.pwc.com/gx/en/issues/c-suite-insights/ceo-survey.html - Gallup「State of the Global Workplace 2024」
https://www.gallup.com/workplace/349484/state-of-the-global-workplace.aspx



