
「1on1は意味ない」と感じる理由とは?意味ある1on1に変えるポイント
人材開発の仕事をしていると、企業の人事や管理職の方からこんな声をよく聞きます。
「1on1って、本当に意味ありますか?」
実は、私自身も研修会社での仕事を行う中で管理職の育成や1on1研修に関わりながら、「より良い1on1とは何か」について、理想を追い求めて試行錯誤し続けています。相手が変わればうまくいかないこともありますし、同じ相手でもその日のコンディション(もちろん、自分自身のコンディションもあるかもしれません)によって会話の深さは大きく変わります。つまり、1on1はマニュアル通りに進めればうまくいくものではありません。それでも、現場でうまく機能している1on1にはいくつか共通点があります。
本記事では、現場でよく聞くリアルな悩みに触れながら、「意味ある1on1」に近づくためのヒントを整理していきます。
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1on1は本当に「意味ない」のか
最近、「1on1は意味がないのでは?」という声を耳にする機会が増えました。人材開発の仕事をしている立場としては、少しドキッとする言葉です。
ただ、率直に言えば、この声は決して珍しいものではありません。むしろ、企業の現場ではかなりリアルな感覚だと思います。こうした声が聞かれるようになったのは、1on1が多くの企業で当たり前の取り組みになってきたからこそなのかもしれません。
うまくいく1on1は実は簡単ではない
私自身、1on1に関する研修や教材を企画することがありますが、「これをやれば必ずうまくいく」という万能な型はないと思っています。同じ質問をしても、ある部下とは深い対話になるのに、別の部下とは雑談で終わってしまうこともあります。また、昨日までは前向きに話していた部下が、その日は元気がなく、会話がうまく進まないこともあります。1on1はあくまで人と人の対話です。相手の個性や状況、そしてその日のコンディションによっても大きく変わるということは肝に銘じておく必要があります。
意味ある1on1の特徴
このように難しさがありつつも、多くの企業が1on1を続けているのは、やはりそこに意味があるからです。うまく機能しているチームでは、1on1が単なるミーティングではなく、部下の成長や関係性を支える時間になっています。
皆さんも部下という立場、もしくは上司という立場、はたまた両方の立場で1on1を経験してきていることと思います。形骸化した1on1と意味があったと思える1on1、それらはどんな対話だったか振り返ってみてください。表1は形骸化した1on1の特徴と意味のある1on1の特徴を整理したものですが、皆さんも心当たりがあるのではないでしょうか。「1on1をやっているかどうか」よりも重要なのは、「どんな対話になっているか」です。そしてその対話の主体が相手、つまりは部下になっていることが意味ある1on1の特徴だとお分かりいただけると思います。
同じ1on1でも、対話の目的の捉え方、上司の役割の果たし方によって、その時間の価値は大きく変わります。つまり、1on1を意味あるものにできるかどうかは上司次第と言えます。
▶表1:形骸化した1on1と意味ある1on1の違い
観点 | 形骸化した1on1 | 意味ある1on1 |
|---|---|---|
目的の捉え方 | 「とりあえず実施する制度」になっている | 部下の成長や内省を支援する時間として位置づけられている |
話題の中心 | 業務進捗やタスク確認が中心 | 振り返り・学び・悩みなど本人の気づき |
会話の主導 | 上司が質問・指示をリード | 部下が話し、上司は問いかける |
上司の役割 | アドバイスや指示を出す人 | 考えを引き出す伴走者 |
部下の状態 | 報告モード | 内省・思考モード |
現場でよく聞く1on1のリアルな悩み
とはいっても、1on1を有意義な時間にするのはそう簡単ではありません。1on1の話になると、人事や管理職の方から本当にさまざまな声が聞こえてきます。ここでは現場でよく聞く悩みを紹介します。
上司の悩み:何を話せばいいか分からない
管理職の方と1on1について話すと、かなり高い頻度で出てくるのが「何を話せばいいのか分からない」という声です。これは決して準備不足や関心の低さが原因とは限りません。むしろ、多くの場合は1on1の目的が曖昧なまま制度だけが導入されていることが背景にあります。例えば、業務の進捗確認はすでにチームミーティングや日常のコミュニケーションで行われています。そのため「業務の話はもうしているし、改めて何を話すのか」と戸惑うのです。本来1on1は、業務の振り返りや学び、悩みなどを扱う対話の時間ですが、この目的が共有されていないと、管理職は話題探しに疲れ切ってしまうのです。
部下の本音:業務報告の時間になっている
一方で部下側からは、「結局、業務報告をするだけの時間になっている」という声を聞くことがあります。この背景には、上司側の進め方だけでなく、部下側の認識の問題もあります。多くの職場では、上司との面談は評価や査定と結びついてきました。そのため部下は無意識のうちに「上司に状況を説明する場」と捉えてしまう傾向があります。その結果、「最近どう?」と聞かれると、自然と進捗報告を始めてしまうのです。本来は振り返りや相談をする場であっても、対話の型が共有されていないと、従来の“報告文化”に引き戻されてしまうのです。
そもそも1on1の目的とは何か
1on1が形骸化してしまう大きな理由の一つは、「何のために行う時間なのか」が曖昧なまま運用されていることです。制度として導入されている企業は多いものの、上司と部下の間で目的の理解が揃っていないケースは少なくありません。一般的には、1on1の目的は大きく次の3つに整理できます。
部下の成長を支援する
状況やコンディションを把握する
上司と部下の信頼関係をつくる
これらの目的が共有されていないと、1on1は単なる「定期面談」や「業務報告の場」になりやすくなります。
部下の成長を支援する
1on1の最も重要な目的は、部下の成長を支援することです。日々の業務の中では、仕事の経験をゆっくり振り返る時間はあまりありません。忙しさの中で次の仕事に進み、「なぜうまくいったのか」「何を学んだのか」を整理する機会は意外と少ないものです。1on1では、こうした経験を振り返りながら、学びや気づきを言語化していきます。上司がすぐに答えを与えるのではなく、問いかけを通じて考える時間をつくることで、部下の内省や成長を支援することができます。
状況やコンディションを把握する
もう一つの重要な目的は、部下の状況やコンディションを把握することです。日常の業務では、メンバーが抱えている悩みや不安は必ずしも表に出てくるとは限りません。チームミーティングでは話しにくいことも多くあります。定期的な1on1の場があることで、業務の進め方に関する悩みや、仕事量の負荷、チーム内の関係性などについて話しやすくなります。結果として、問題が大きくなる前に支援できる可能性が高まります。
上司と部下の信頼関係をつくる
3つ目の目的は、上司と部下の信頼関係を築くことです。組織の中では、上司と部下が落ち着いて対話する時間は意外と限られています。忙しい業務の中では、どうしても「指示・確認」のコミュニケーションが中心になりがちです。定期的に1on1の時間を設けることで、仕事の話だけでなく、考え方や価値観、キャリアの方向性などについても対話できるようになります。こうした積み重ねが、安心して相談できる関係性をつくっていきます。
意味ある1on1に共通する上司のマインドセット
ここまで見てきたように、1on1が形骸化してしまうケースでは「業務確認」や「上司主導のアドバイス」が中心になりがちです。一方で、意味ある1on1が続いているチームを見ていると、進め方のテクニック以前に、上司側の考え方(マインドセット)に共通点があることに気づきます。もちろん、毎回うまくいくわけではありません。相手の状況やその日のコンディションによって会話の深さは変わります。それでも対話の質が大きく崩れない上司には、いくつかの共通した姿勢があります。
「答えを与える」より「考える時間をつくる」
管理職は、問題が見えるとすぐに解決策を提示したくなるものです。実際、日常の業務では迅速な判断や指示が求められる場面も多くあります。
しかし、意味ある1on1を行っている上司は、すぐに答えを出すことよりも、部下が考える時間を大切にしています。例えば、部下が悩みを話したときに、すぐに「こうした方がいい」と助言するのではなく、「どう考えている?」「何が一番難しいと感じている?」と問いかけることで、本人の思考を整理する時間をつくります。
このプロセスがあることで、部下は自分の経験から学びを得やすくなります。
「良い対話は毎回生まれるわけではない」と理解している
もう一つの特徴は、1on1に過度な成果を求めていないことです。1on1では毎回深い話になるとは限りません。仕事が立て込んでいる時期や、部下のコンディションによっては、雑談で終わることもあります。意味ある1on1を続けている上司ほど、こうした状況を必要以上に気にしません。むしろ「継続して対話すること自体に意味がある」と考えています。その結果、部下にとっても「毎回成果を出さなければならない面談」ではなく、安心して話せる場になりやすいのです。
1on1を支える人事の役割 ― 対話を学ぶ機会をつくる
このように、意味ある1on1を実現するうえで大きな影響を持つのは、上司の関わり方やマインドセットです。ただし、それを現場任せにしてしまうのは現実的ではありません。多くの管理職は、これまで「対話の方法」を体系的に学ぶ機会がほとんどないままマネジメントを担っています。そのため1on1の場面で「何を話せばよいのか分からない」と戸惑うのは、ある意味自然なこととも言えます。こうした状況を考えると、人事ができる重要な役割の一つは、対話を学ぶ機会を組織として用意することです。
対話は自然にできるものではなく、学ぶことができる
「部下と話すことくらい、わざわざ研修を受けなくてもできるのでは」と思われることもあります。しかし実際には、1on1のような対話にはいくつかの基本的なスキルがあります。
例えば、
相手の話を引き出す問いかけ
話を遮らずに聞く姿勢
学びにつなげる振り返りの進め方
こうした関わり方を知るだけでも、1on1の対話の質は大きく変わることがあります。研修の意義は「正しいやり方を押し付けること」ではなく、管理職が対話の引き出しを増やすことにあります。
一度の研修ではなく、学び続けられる機会をつくる
もう一つ重要なのは、研修を一度きりのイベントにしないことです。すでに管理職向けに1on1研修を実施している企業が増えています。そのため「すでに1度研修をやっているから同じ対象者に同じテーマの研修は必要ない」と考える人事担当者の方も多くいらっしゃいます。ところが、1on1は人と人の対話なので、実践の中で悩みや疑問が生まれることも多くあります。「この部下にはどう関わればいいのか」「話が広がらないときはどうすればいいのか」など、実際にやっているなかで見えてくる課題も少なくありません。そのため、意味ある1on1を組織に根づかせている企業では、
初期の導入研修
実践後のフォロー研修
管理職同士の情報共有
など、何度でも学び直せる機会を設けています。何度も研修機会を設けることが難しい企業では、映像学習を導入し、受講者が好きな時に学び直せるようにしているケースも増えています。当社でも映像学習コンテンツを提供していますが、1on1の講座は根強い人気があります。対話シーンを実際に映像で見ることで気づくことも多いので、1on1の進め方を学ぶのに映像学習は適しているとも言えます。
まとめ
1on1が「意味ない」と感じられてしまう背景には、制度そのものというよりも、目的の曖昧さや対話の進め方への戸惑いがあります。実際の現場では、上司は「何を話せばいいのか分からない」と悩み、部下は「業務報告の時間になっている」と感じていることも少なくありません。しかし本来の1on1は、部下の成長を支援し、状況を理解し、信頼関係を築くための対話の時間です。そして、その質を大きく左右するのは上司の関わり方やマインドセットです。ただし、それを現場任せにするのではなく、人事が対話を学ぶ機会を提供し、何度でも学び直せる環境を整えることも重要になります。
1on1は、一度仕組みを作れば自然とうまくいくものではありません。対話の試行錯誤と学びの機会を重ねながら、少しずつ「意味ある1on1」に近づけていくことが、組織にとっての大きな価値につながっていきます。
FAQ
Q1. 1on1が雑談で終わってしまうのは問題ですか?
必ずしも問題ではありません。雑談の時間があることで関係性が深まることもあります。毎回の成果に重きを置きすぎず、継続して対話を行うことが大切です。
Q2. 上司が話しすぎてしまう場合はどうすればよいですか?
「まず聞く」ことを意識するだけでも変わります。部下の話を遮らずに聞くことで、自然と対話が深まることがあります。
Q3. 1on1の適切な時間はどれくらいですか?
多くの企業では30分程度が一般的です。1回で長時間話すよりも単純接触効果を狙い、対話の頻度を上げると良いでしょう。
Q4. 部下があまり話してくれない場合は?
最初から深い話になるとは限りません。雑談から始めて徐々に信頼関係をつくることも有効です。
Q5. 人事として何から改善すべきですか?
まずは1on1の目的を整理し、管理職に共有することです。目的が明確になるだけでも運用が変わることがあります。そのうえで、必要となる対話スキルやマインドセットに関する学習機会を提供し、現場の支援を行うことが必要です。
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参照・出典
経済産業省「人材版伊藤レポート」2020
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf
Harvard Business Review「Make the Most of Your One-on-One Meetings」Steven G. Rogelberg 2022
https://hbr.org/2022/11/make-the-most-of-your-one-on-one-meetings



