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数字でマネジメントできる組織をつくるには? 財務三表活用と社内文化醸成の実践ステップ

はじめに

日本企業では「売上は上がっているのに利益が残らない」「意思決定が遅れる」など、数字に基づくマネジメントが定着していない課題が依然として根強く存在します。
中堅・大企業でも、経営の意思決定を財務データに基づいて行う管理会計の仕組みが整っていないケースが多く、例えば管理職層の財務リテラシー不足や、部門別KPIを継続的にモニタリングできていない組織は少なくありません。
実際に各種調査では、定量的なKPIを活用した戦略遂行が「十分に機能している」と答える企業は3〜4割前後にとどまるとされます。

一方で、数字マネジメントができている状態とはどのようなものか。
それは次の条件を満たした組織と言えます。

  • 経営方針から現場レベルまで、財務三表を軸にしたKPIが明確に設計されている

  • 各部門が自部門のKPIを毎月レビューし、予実差異を分析して改善を継続している

  • 目標値の設定根拠が明確で、貸借対照表(B/S)・損益計算書(P/L)・キャッシュフロー計算書(C/F)と日常業務が連動している

  • 部門横断で数字を共有し、全社最適を意識した意思決定が迅速に行われる

この記事では、この状態を実現するために必要な課題の把握、財務三表の理解、部門マネジメントへの落とし込み、
そして社内文化の醸成までを、段階的に整理します。

数字でマネジメントできない企業が抱える課題

──データが示す3つの主要リスク

数字による管理が定着していない組織は、次の3つの深刻なリスクを抱えます。

感覚的な意思決定による利益の毀損

財務三表(B/S・P/L・C/F)を活用しないまま意思決定を続けると、売上が増えても利益が残らない、資金繰りが慢性的に悪化する、といった構造的課題を見逃します。
たとえば在庫の増加や回収遅延が数字に現れても、気づかないまま投資を拡大すれば、利益率が長期的に低下しかねません。

国内のDX関連調査でも、KPI設定や管理会計の成熟度には大きな差があり、未整備の企業ほど財務体質の悪化を早期に察知できない傾向が報告されています。
感覚頼みの経営判断は利益の毀損に直結するのです。

意思決定の遅れによる機会損失

数字に基づく根拠が不足すると、意思決定に時間がかかり、市場変化への対応が後手に回る危険があります。
海外調査では、戦略的意思決定に平均20日、日常的判断でも約1週間を要するという結果があり、俊敏な競争が求められる現代では致命的な遅れです。

また高度なデータ分析やBIツールを活用して迅速な意思決定を行えている企業は全体の4分の1前後にとどまるとも言われ、多くの企業がスピード経営の課題を抱えています。

部門間で基準がバラバラになり全体最適を損なう

部門ごとにKPIや財務指標の定義が異なると、全社最適が崩れます
例えば営業部は売上を、製造部はコストを優先するなど、評価基準が異なると利益目標を達成できても資金繰りが悪化する可能性があります。

特にROIC(Return on Invested Capital:投下資本利益率)や、PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)といった株主や投資家が注目する指標は、事業の稼ぐ力や株主価値を測る上で重要ですが、現場KPIと連動していなければ経営戦略に活かせません。実際、ROICやPBRを現場の評価指標まで落とし込み、連動させている企業はまだ一部に限られています。

ここまでのポイント

数字によるマネジメントが不十分だと、
①利益の毀損
②意思決定の遅延
③全社最適の欠如
・・・というリスクが顕在化します。

この章で示した課題は、後述する財務三表の理解・KPI設計・文化醸成によって克服が可能です。

財務三表を理解することが「数字で語る組織」づくりの第一歩

──管理職が押さえるべき4つの基本視点

数字マネジメントの基盤は財務三表の正しい理解にあります。
これを土台に、部門のKPI設計や予算策定、資金繰り管理までが有機的につながります。

財務三表の役割を理解する

  • 貸借対照表(B/S):資産・負債・純資産を示し、企業の財務体質の健全性や借入余力を判断する基礎。

  • 損益計算書(P/L):一定期間の収益・費用・利益を示し、利益率やコスト構造の改善に役立つ。

  • キャッシュフロー計算書(C/F):営業・投資・財務活動による現金収支を可視化し、資金不足や投資余力を早期に発見。

日本の平均的な自己資本比率は4割前後。これを基準に業種や自社の財務体力を測れば、適正な資本構成や投資判断の目安が見えてきます。

指標を比較して変化を読む

数字は単年値だけでなく比較してこそ意味を持ちます
前年同月比や予算比などの比較分析を習慣化すれば、異常値や改善余地を早期に把握できます。

業種特性に合った指標を選ぶ

業界によって理想的な利益率や回転率は異なります。
製造業は在庫回転率、サービス業は労働分配率など、業種特性に即した指標を選ぶことで、より精度の高い分析と目標設定が可能になります。

現場のKPIと財務指標をつなぐ

売上=数量×単価、固定費率など、現場のオペレーション指標と財務指標をつなげることで、数字が現場の行動変革につながる仕組みが完成します。

部門マネジメントに活かす財務分析の基本

──現場で成果を出す5つのステップ

ここからは財務三表を実際の部門マネジメントに落とし込み、利益改善や成長を実現する具体的な手順を解説します。

部門目標を明確化する

経営計画と連動させて、部門ごとに売上成長率、営業利益率、在庫回転期間などの数値目標を設定します。
この段階で経営層と部門長が合意することで、後のKPI設定とレビューがスムーズになります。

KPIを選定する

目標を実現するために追うべき指標を選びます。
売上総利益率、自己資本比率、流動比率など財務三表に直結するものと、リードタイムや顧客満足度など業務特性に応じた運営指標をバランスよく組み合わせることが重要です。

目標値とレビュー周期を設定する

KPIには明確な数値目標とレビュー周期を設定します。
一般には月次または四半期ごとが効果的で、予実差異を定期的にチェックし改善策を検討します。
この継続が、財務三表に現れる最終利益の改善につながります。

可視化と報告体制を整える

ダッシュボードやBIツールを活用して、KPIを一目で把握できる形で可視化します。
部門横断で数字を共有すれば、情報の非対称性が減り意思決定のスピードが上がります。

改善アクションを実行する

予実差の原因を特定し、販管費削減、価格戦略の見直し、新規投資判断など具体的なアクションを実行します。
重要なのは、単なる原因究明にとどまらず、改善が財務三表の数値変化として現れるまでPDCAを回すことです。

数字に強い組織文化を醸成する方法

──持続可能な成長を支える4つの視点

財務分析を現場で実践しても、組織全体に数字で語る文化が根づかなければ一過性で終わります。
持続的に成長する企業は、以下の4つを同時に進めています。

経営層が率先して数字を公開する

経営層が部門別損益や重要KPIを透明性を持って共有することで、社員が「数字は経営の共通言語である」と認識できます。
定例会議や社内ポータルでの月次報告が有効です。

財務教育・会計研修を体系化する

管理職や次世代リーダーが財務三表を理解し、部門別採算を語れるようにするためには、アカウンティング(企業会計)を中心に据えた研修体系が欠かせません。
集合研修、eラーニング、OJTを組み合わせた多層的教育が、数字で議論できる人材層を厚くします。

成果を評価・称賛する仕組みをつくる

KPI改善や利益目標達成を人事評価や報奨制度に反映させ、数字に向き合う行動が組織的に称賛される文化をつくります。

失敗から学ぶPDCAを習慣化する

数字で示された課題をもとに改善策を実行し、失敗も含めて共有・学習する仕組みを持つことで、組織は継続的に成長できます。

まとめ:数字でマネジメントする組織づくりを加速するには

──今すぐ着手すべき4つの行動

最後に、今日から始められる具体的なアクションを整理します。

月次決算の全社共有を習慣化する

財務三表に基づく数字を月次で全社員に共有し、部門横断で議論する文化を根づかせます。

部門別KPIと予実差異分析を定着させる

部門ごとに財務指標と現場指標を連動させ、定期レビューで改善を続ける体制を整えます。

研修とOJTで財務感覚を組織に根づかせる

管理職向けの財務研修やOJTを通じて、意思決定に数字を活用できる人材を計画的に育成します。

体系的な研修・教育で財務感覚とアカウンティング力を定着させる

アカウンティングや管理会計を基礎から学ぶ多層的な研修体系を整備し、財務指標を現場レベルで扱える人材と文化の双方を強化します。

「数字でマネジメントする力」は、もはや経理・財務部門だけのものではありません。

財務三表の理解、部門別KPIによる運営、アカウンティング教育を含む数字で語る文化醸成は、企業が持続的に成長し競争力を維持するための必須条件です。

本記事で紹介したエビデンスに基づくステップをぜひ参考に、自社の経営・人材育成に活かしてください。

当社は研修・教材サービスを通じて、皆さまの組織づくりを力強く支援します。

参考・引用元

  • 経済産業省/IPA「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート 2024年版」

  • Alteryx「意思決定の現状調査 2023」

  • ABeam Consulting「ROIC経営実態調査 2023」

  • カオナビ「予実管理に関する実態調査 2024」

  • 財務省「法人企業統計調査(自己資本比率データ)」

  • 日本生産性本部「生産性指標年鑑」

  • 中小企業庁「2023年版 中小企業白書」

サイコム・ブレインズの、アカウンティングを学ぶeラーニング

サイコム・ブレインズでは、アカウンティング(企業会計)の基本を押さえ、経営視点を持ち、適切な業務判断を行うために財務三表を理解し、主要な財務比率の分析ができるようになるための様々なeラーニング、映像教材をご用意しています。
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奥村 祥
奥村 祥
サイコム・ブレインズ コンサルタント 横浜国立大学 教育人間科学部を卒業後、大手総合楽器店で販売職を経験した後、電機大手パートナーのITベンダーに転じ、法人営業に従事。 AIをはじめとする新しいテクノロジーを活用した、コト起点での価値創出・提供に取り組む中で、組織・人事の変革こそが本質的な経営課題解決に直結すると確信。 企業にさらなる活力をもたらしたいという思いから、現職に至る。 北海道札幌市出身。趣味はトロンボーン演奏で、週末はジャズビッグバンド等で活動。 経済産業省推進資格 ITコーディネータ、IoT検定 Professional Coordinator、BCAO認定事業継続管理者。

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