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コーポレートガバナンス強化の実践ポイント|企業が取り組む施策と改善の進め方

近年、企業不祥事への社会的関心の高まりやESG投資の拡大を背景に、「コーポレートガバナンス強化」は企業経営における重要なテーマとなっています。

しかし実際の現場では「制度は整えたが機能していない」「何から見直すべきか」といった課題に直面する企業も少なくありません。ガバナンス強化で重要なのは、制度を整備することではなく、意思決定と監督の仕組みを実際に機能させることです。

本記事では、ガバナンス強化の背景や基本的な考え方を整理したうえで、企業が取り組むべき施策と進め方のポイントを解説します。

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取締役会の実効性評価については、以下の記事で解説しています。

(後日掲載)

目次[非表示]

  1. 1.ガバナンス強化とは?基本的な考え方
  2. 2.企業がガバナンス強化を求めれられる主な場面
    1. 2.1.上場準備や資本市場への対応
    2. 2.2.不祥事やリスク対応の必要性
    3. 2.3.企業成長による組織の複雑化
    4. 2.4.グローバル展開・海外進出時
    5. 2.5.法規制・制度変更への対応
    6. 2.6.ESG・サステナビリティ対応の強化
    7. 2.7.経営体制の変更・トップ交代時
  3. 3.ガバナンス強化が進まない企業に共通する課題
    1. 3.1.取締役会が形式的な会議になっている
    2. 3.2.制度が形骸化している
    3. 3.3.異論や問題提起が出にくい組織文化
  4. 4.ガバナンス強化のためにできる具体的な施策と進め方
    1. 4.1.取締役会の実効性評価 
    2. 4.2.意思決定プロセスの見直し/役割と責任(権限)分担の明確化
    3. 4.3.リスク管理と内部統制の整備
    4. 4.4.組織文化を診断ツールで可視化し、ガバナンスを機能させる
    5. 4.5.役員の知識・能力を高める
  5. 5.まとめ
  6. 6.FAQ

ガバナンス強化とは?基本的な考え方

ガバナンス強化とは、企業の意思決定や経営監督の仕組みを整備し、その実効性を高めていく取り組みを指します。コーポレートガバナンス・コードの整備やESG*投資の拡大を背景に、多くの企業がガバナンス体制の見直しや強化を進めています。

もっとも、ガバナンス強化は単に制度やルールを増やすことを意味するわけではありません。取締役会の構成や社内規程を整備しても、意思決定の質や監督機能が十分に発揮されていなければ、実効性のあるガバナンスとは言えないためです。

重要なのは、企業の重要な判断がどのような基準で行われているのかを明確にし、その判断を組織として検証できる状態をつくることです。さらに、意思決定と監督の仕組みが実際に機能しているかを定期的に振り返り、改善を重ねていく運用も欠かせません。

*Environment,Social,Governanceの頭文字を取って作られた言葉。

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ガバナンスとは何か、意味や考え方の基本については、以下の記事で詳しく解説しています。

企業がガバナンス強化を求めれられる主な場面

企業がガバナンス強化に取り組むきっかけはさまざまですが、多くの場合は経営環境の変化やリスクへの対応が背景にあります。近年は、企業不祥事への社会的関心の高まりやESG投資の拡大により、企業統治のあり方が企業価値に直結する要素として注目されています。

また、事業規模の拡大やグローバル展開などによって意思決定が複雑化すると、従来の経営体制ではリスク管理や監督が十分に機能しなくなる可能性があります。そのため企業は、自社の成長段階や経営課題に応じてガバナンス体制を見直す必要があります。

企業がガバナンス強化を求められる場面は主に以下の8つが挙げられます。

上場準備や資本市場への対応

企業が上場を目指す場合、投資家からの信頼を得るためにガバナンス体制の整備が不可欠になります。取締役会の構成や監査体制、情報開示の仕組みなど、透明性の高い経営体制を構築することが求められます。

不祥事やリスク対応の必要性

企業不祥事が発生した場合、その原因は個人の行為だけでなく、組織の構造や監督体制の弱さにあるケースが多く見られます。チェック機能が十分に働いていない場合、小さな問題が見過ごされ、後から大きなリスクとして顕在化することがあります。そのため予防・再発防止に向けて、意思決定プロセスの透明化や監督機能の強化が求められます。

企業成長による組織の複雑化

企業が成長すると、事業領域や組織構造が複雑化し、意思決定の範囲も広がります。創業期には少人数で判断できていた経営判断も、組織規模が大きくなると明確なルールや監督体制がなければ機能しなくなります。このような段階では、権限と責任の分担を整理し、意思決定のプロセスを明確にすることが重要です。

グローバル展開・海外進出時

各国の法規制や商習慣の違いに対応しながら、グループ全体として一貫したガバナンスを維持する必要が生じます。拠点が増えることで、本社の管理が行き届きにくくなり、リスクの把握や意思決定の統一が難しくなる場合があります。

法規制・制度変更への対応

コーポレートガバナンス・コードの改訂や各種法令の変更により、企業には新たな対応が求められることがあります。特に上場企業においては、情報開示や社外取締役の設置など、制度面での対応がガバナンス強化の契機となるケースが多く見られます。

ESG・サステナビリティ対応の強化

近年はESG投資の拡大により、企業には環境・社会・ガバナンスの観点からの説明責任が求められています。特にガバナンスは企業価値を左右する重要な要素として位置づけられており、取締役会の構成や監督機能の実効性が評価対象となります。

経営体制の変更・トップ交代時

経営トップの交代や組織再編は、意思決定のあり方や権限構造を見直す重要なタイミングです。新たな経営方針に基づき、取締役会の役割や監督機能のあり方を再設計する必要が生じることがあります。

ガバナンス強化が進まない企業に共通する課題

多くの企業がガバナンス強化の必要性を認識している一方で、実際には取り組みが十分に進んでいないケースも少なくありません。その背景には、いくつかの共通した課題があります。

取締役会が形式的な会議になっている

本来、取締役会は企業価値の向上に向けて経営を監督し、重要な経営判断について議論する場です。しかし実際には、取締役会が経営陣からの報告や議案を形式的に承認する場にとどまり、十分な議論が行われていないケースも少なくありません。

例えば、次のような状況は、取締役会が形式的な会議になっている典型例といえます。

  • 報告事項の説明に多くの時間が費やされ、重要案件の議論が十分に行われていない
  • 戦略課題や重要リスクなど、企業価値に関わるテーマが議題として十分に取り上げられていない
  • 取締役会資料が膨大で、事前に十分な検討が行われないまま議案が承認されている

このような状態では、取締役会が本来担うべき「経営の監督」や「意思決定の質の向上」といった役割が十分に果たされているとは言えません。

取締役会の実効性を高めるうえで重要な役割を担うのが、社外取締役の存在です。社外取締役は、企業内部の慣習や前提にとらわれない視点から経営判断を検証し、経営陣の意思決定を客観的に監督する役割を担います。また、異なる専門性や経験を持つ取締役が参加することで、議論の幅が広がり、意思決定の質を高めることも期待されます。

取締役会を単なる承認機関ではなく、企業価値の向上に向けた戦略的な議論の場として機能させることが、ガバナンス強化において重要なポイントとなります。

制度が形骸化している

ガバナンス強化の取り組みとして、内部統制制度や取締役会の実効性評価などを導入している企業は多いですが、制度が存在していても、それが実際の経営判断や組織運営の改善につながっていなければ、ガバナンスの実効性は高まりません。

例えば、次のような要因で制度は形骸化してしまいます。

  • 制度の目的が組織内で十分に共有されておらず、運用が形式的な作業にとどまっている
  • 制度の運用結果が意思決定や具体的な改善アクションに結びついていない
  • 制度を運用・改善する責任の所在が曖昧で、課題が認識されても対応が先送りされてしまう
  • 制度を定期的に見直す仕組みがなく、経営環境や事業構造が変化しているにもかかわらず、制度が固定化している

このような状態では、制度は存在していても、実際にはガバナンス機能が十分に発揮されているとは言えません。制度を導入すること自体が目的になってしまうと、ガバナンスは形だけのものになってしまいます。重要なのは、その制度が経営判断の質の向上につながっているかを継続的に確認し、運用の改善につなげていくことです。

また、企業を取り巻く経営環境や事業構造は常に変化しています。そのため、一度整備した制度を固定化するのではなく、制度の運用状況を定期的に振り返り、必要に応じて改善していくことが必要です。

異論や問題提起が出にくい組織文化

組織の中で異なる意見を出しにくい環境では、ガバナンスは十分に機能しません。特に、上位者の意見に対して異論を唱えにくい雰囲気がある場合、重要なリスクや問題が見過ごされる可能性があります。

例えば、次のような状況は、ガバナンスが機能しにくい組織文化の典型例です。

  • 取締役会での議論が経営陣の説明を確認する場にとどまっている
  • 社外取締役が発言しづらい雰囲気がある
  • 重要な投資案件や事業判断について、リスクの視点からの議論が十分に行われていない
  • 問題提起をすると否定的に受け止められ、率直な意見交換が行われにくい

ガバナンスを機能させるためには、役職や立場に関わらず意見を共有できる、率直な意見交換が行われる組織環境を整えることが重要です。組織文化や意思決定の特徴を客観的に診断し、課題を可視化することも有効な取り組みの一つです。


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ガバナンス強化のためにできる具体的な施策と進め方

ここでは、企業で実際に進められている代表的なガバナンス強化の取り組みを整理してご紹介します。

取締役会の実効性評価 

ガバナンスを機能させる中心的な役割を担うのは取締役会です。そのため、多くの企業では取締役会が経営の監督機関として十分に機能するよう、実効性を高める取り組みが進められています。
例えば、次のような取り組みが挙げられます。

  • 社外取締役の選任

  • 取締役会の多様性の確保(専門性・経験の多様化)

  • 取締役会実効性評価の実施

企業内部だけの視点では、組織の慣習や前提にとらわれ、重要なリスクや課題を見落とす可能性があります。そのため、社外取締役や外部専門家など、組織外の視点を意思決定に取り入れることが有効です。

社外取締役の視点が加わることで、経営陣の判断を客観的に監督する機能が強化されます。また、多様な経験や専門性を持つ取締役が参加することで、議論の幅が広がり、意思決定の質を高めることが期待されます。

さらに近年は、取締役会の運営や議論の質を定期的に振り返る「取締役会実効性評価」を実施する企業も増えています。取締役会の構成や議題の設定、議論の内容などを検証し、改善につなげることで、取締役会がより実質的に機能する体制づくりが進められています。

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取締役会の実効性評価については、以下の記事で解説しています。
(後日掲載)

意思決定プロセスの見直し/役割と責任(権限)分担の明確化

企業の重要な意思決定は、多くのステークホルダーに影響を与えます。そのため、どのような基準で判断が行われたのかを説明できる状態を整えることが重要です。
例えば、以下は非常に基本的なことながら、改めて確認し、共通認識を持つことも必要な取り組みかもしれません。

  • 重要な経営判断について、議論内容や判断理由を議事録として明確に残す

  • 投資判断や事業撤退などの意思決定について、事前に判断基準(投資基準・撤退基準など)を定める

  • 重要案件について、複数部門によるレビューやリスクチェックを行う

  • 取締役会資料や意思決定プロセスを整理し、監査役や社外取締役が検証できる状態を整える


このように意思決定の過程と判断根拠を組織として記録・共有できる状態をつくることで、後から意思決定の妥当性を検証できるようになります。その結果、社内外への説明責任を果たしやすくなり、ガバナンスの実効性も高まります。

また、ガバナンスを機能させるためには、組織内の権限と責任の分担を明確にすることも重要です。誰がどの範囲の意思決定を行い、その結果に責任を持つのかが曖昧な場合、判断が先送りされたり、問題が発生した際に責任の所在が不明確になったりする可能性があります。

リスク管理と内部統制の整備

企業活動には、事業リスク、法規制リスク、情報セキュリティリスク、レピュテーションリスクなど、さまざまなリスクが伴います。ガバナンス強化の観点では、これらのリスクを早期に把握し、適切に対応できる体制を整えることが重要です。
例えば、次のような取り組みが挙げられます。

  • 重要リスクを定期的に評価するリスクマネジメント体制を整備する

  • リスク管理委員会やコンプライアンス委員会を設置する

  • 内部通報制度(ホットライン)を整備する

  • 内部統制(J-SOXなど)の運用状況を確認する

  • 内部監査部門が独立した立場で定期的に監査を実施する

リスクを体系的に把握し、監督する仕組みがあれば、小さな問題の段階で兆候を捉えやすくなり、不祥事や重大な経営リスクの発生を未然に防ぎやすくなります。

組織文化を診断ツールで可視化し、ガバナンスを機能させる

ガバナンスは制度だけで機能するものではなく、組織文化とも密接に関係しています。異なる意見や懸念を率直に共有できない環境では、リスクや問題が見過ごされやすくなります。そのため、役職や立場に関わらず意見を出しやすい雰囲気をつくることが重要です。
例えば、次のような取り組みが挙げられます。

  • 組織文化や意思決定のあり方を定期的に診断・可視化する

  • 役職や立場に関わらず意見を出しやすい会議運営やコミュニケーションを促進する

  • 問題提起や異論を歓迎する組織風土を醸成する

ガバナンスの実効性を高めるためには、制度や仕組みだけでなく、意思決定の背景にある組織文化を把握することが欠かせません。
そのため近年では、組織文化や意思決定の特徴を客観的に診断し、組織の状態を可視化したうえで改善につなげる取り組みも注目されています。この診断を通じて組織の意思決定の傾向や課題を把握することで、ガバナンスの実効性を高める組織風土づくりにつなげることが可能になります。


自社の組織文化や意思決定の特徴を客観的に把握したい場合は、以下のようなサーベイやワークショップの活用をお勧めします。
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役員の知識・能力を高める

ガバナンスの実効性は、制度だけでなく、それを運用する人材の能力にも大きく左右されます。取締役や監査役が経営やリスク管理、ESGなどに関する知識を継続的に学ぶことは、取締役会の議論の質を高めるうえで重要です。
例えば、次のような取り組みが挙げられます。

  • 役員向け研修の実施

  • 新任取締役・監査役向けオリエンテーション

  • ガバナンス、リスク管理、ESGなどに関する継続的な学習機会の提供

こうした取り組みによって、取締役や監査役が経営監督に必要な知識や思考力、マインドを高めることで、取締役会の議論の質が向上し、ガバナンスの実効性も高まりやすくなります。

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まとめ

ここまで見てきたように、ガバナンス強化とは単に制度やルールを整備することではなく、企業の意思決定と監督の仕組みを実際に機能させる取り組みです。

ガバナンス強化を進める際、「どこから見直すべきか」と悩まれる担当者の方も少なくありません。ガバナンスは単一の制度ではなく、意思決定・監督・リスク管理など複数の要素が組み合わさって機能します。そのため、特定の制度だけを導入しても、組織全体の統治機能が向上するとは限りません。

取締役会の実効性向上、意思決定プロセスの透明化、リスク管理体制の整備など、企業統治を構成する主要な領域を体系的に見直すことが重要です。

また、どれほど制度を整備しても、それが形骸化してしまえばガバナンスは十分に機能しません。重要なのは、経営の重要な判断について

  • なぜこの意思決定を行うのか
  • どのようなリスクがあるのか
  • 誰が責任を持つのか

といった問いが組織の中で自然に議論される状態をつくることです。

さらに、こうした議論を支えるのが組織文化です。異なる意見や懸念が率直に共有される環境があってこそ、意思決定の質は高まり、ガバナンスも実効的に機能します。人が定期的に健康診断を行うように、組織文化の診断を定期的に実施し、企業として実現したい組織文化を形成していくことをお勧めします。

ガバナンス強化とは制度改革にとどまるものではなく、企業の意思決定の質と組織文化を高めながら、持続的な成長と企業価値の向上につなげていくための取り組みだと言えるでしょう。

FAQ

Q1 コーポレートガバナンス強化とは何ですか?

A. コーポレートガバナンス強化とは、企業の意思決定や経営監督の仕組みを整備し、その実効性を高める取り組みを指します。取締役会の実効性向上、意思決定プロセスの透明化、リスク管理体制の整備などを通じて、企業価値の向上と持続的な成長を実現することが目的です。

Q2 ガバナンス強化が求められる背景は何ですか?

A. 近年は企業不祥事への社会的関心の高まりやESG投資の拡大により、企業統治のあり方が企業価値に直結する要素として注目されています。さらに、事業のグローバル化や組織の複雑化に伴い、意思決定やリスク管理の仕組みを強化する必要性が高まっています。

Q3 ガバナンス強化の具体的な取り組みには何がありますか?

A. 代表的な取り組みとして、次のようなものがあります。詳細は本記事に記載しています。

・取締役会の実効性向上

・社外取締役の活用

・意思決定プロセスの透明化

・リスク管理・内部統制の整備

・役員の知識や能力の向上

・組織文化の可視化や診断

Q4 ガバナンス強化を進める際のポイントは何ですか?

A. ガバナンス強化では、制度を整備するだけでなく、その制度が実際の意思決定や組織運営にどのように機能しているかを継続的に確認することが重要です。取締役会の議論の質や意思決定プロセス、組織文化などを含めて総合的に見直すことが求められます。

Q5 ガバナンス強化はどこから始めればよいですか?

A.まずは、自社の意思決定プロセスや取締役会の運営、組織文化の現状を把握することが重要です。そのうえで、影響の大きい領域(取締役会運営・意思決定プロセスなど)から優先的に見直すことが有効です。

■本記事の監修者■

ビジネスマスターズ・マーケティングチーム
ビジネスマスターズ・マーケティングチーム
教授システム学修士であり、eラーニングシニアコンサルタントであるデジタルラーニング事業部門長 花木喜英率いるビジネスマスターズ・マーケティングチーム。企業研修登壇実績10年以上・年間100本以上をこなすサイコム・ブレインズ/プログラムディレクター 小西功二とメンバー3名で、企業とビジネスパーソン双方が利を得る教材開発をコンセプトに、学術理論を徹底研究し開発されたビジネスマスターズを、世に広めるべく尽力しています。

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