
【セミナーレポート】なぜ、優秀な人材ほど判断を誤るのか ―― MBAも研修も受けてきたのに「事業が前に進まない」理由
2026年3月4日、MBK Wellness株式会社 サイコム・ブレインズ事業本部は、オンラインセミナー「なぜ、優秀な人材ほど判断を誤るのか――MBAも研修も受けてきたのに『事業が前に進まない』理由」を開催しました。
本セミナーでは、やまがBASE 代表取締役CEOの中原 功寛 氏を講師に迎え、企業でしばしば見られる「優秀な人材が集まっても事業が進まない」という現象の背景について議論が行われました。さらに、その構造的な原因と、組織の意思決定力を高めるための人材育成の視点について解説が行われました。
要点サマリー
- 優秀な人材がいても事業が進まない原因は「能力不足」ではなく「部分最適」の構造
- 部門ごとの専門性と責任感が強いほど、判断軸が分断されやすい
- 解決にはMBA的な「ビジネス全体構造」の理解が重要
- 価値提案・経営資源・業務プロセス・収益構造を俯瞰することで判断軸を揃えられる
- AI時代は「指示を出す力」と「出力を評価する力」が人材価値を左右する
- 企業の人材育成ではスキル教育だけでなく、事業を俯瞰する力の育成が鍵となる
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優秀な人材が判断を誤る理由──「部分最適」に陥る組織構造
なぜ優秀な人材が集まっても、プロジェクトは前に進まないのか──本セミナーでは、まず、MBK Wellness株式会社 シニアコンサルタントの宮川 由紀子が、企業の人事担当者から多く寄せられるこの問いを紹介し、その原因について、やまがBASE 代表取締役CEOの中原 功寛氏に問いかけました。
中原氏は「問題の本質は、誰かが怠けているからではない」と切り出し、各部門はそれぞれの責任を果たそうと真剣に取り組んでいるにもかかわらず、結果として組織全体がうまく機能しなくなるケースがあることを、英国の自動車メーカーの事例を挙げながら解説しました。くわえて、企業全体の戦略と各部門の判断が結び付いていない場合、各部門の“正しさ”が互いに衝突し、結果として企業全体の方向性が定まらなくなる状況を、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授の言葉を引用しながら次のように解説しました。
「戦略とは何を選び、何を捨てるか、すなわちトレードオフを決めることです。企業として何を優先するのかという判断基準が共有されていなければ、各部門はそれぞれの正義に基づいて行動するため、組織全体としての意思決定のスピードも質も低下してしまいます。」
さらに中原氏は、優秀な人材ほど部分最適に陥りやすい理由として、次の3点を挙げました。
- 専門性が高いほど、自分の領域の最適解が明確になりやすい
- 専門家同士の議論では、異なる視点がノイズとして排除されやすい
- 責任感が強いほど自部門を守る意識が強まり、他部門との対立が生まれやすくなる
だからこそ中原氏は、「組織には、事業全体を俯瞰する視点を持つ仕組みが必要になる」と強調しました。
事業の全体像を捉える視点──MBAが提供するビジネスの共通言語
では、部分最適に陥らないためには、どのような視点が必要なのでしょうか。中原氏は、その一つの方法としてMBAで扱われるビジネス教育の考え方を紹介しました。
中原氏は自身のハーバード・ビジネス・スクールでの学びを振り返りながら、MBAのカリキュラムではマーケティング、財務、会計、戦略、オペレーション、リーダーシップなど、企業経営を構成する複数の分野を体系的に学ぶが、その学習の目的は、各分野の専門家になることではなく、ビジネス全体の構造を理解し、議論できる視点を身につけることにある、と述べました。そして、クレイトン・クリステンセン教授が提唱した「ビジネスモデルの4つの要素」を紹介しながら次のように説明しました。
「企業活動は個別の専門領域の集合ではなく、複数の機能が連動することで成り立つシステムである。その全体構造を理解することで、各部門の判断が企業全体の戦略とどのようにつながるのかを考えられるようになる。」
企業内でこのような共通言語を持つ人材が増えることが、組織の意思決定力を高める重要な要素になると中原氏は述べました。
新規事業は「総合格闘技」──疑似体験が俯瞰力を鍛える
中原氏は新規事業の立ち上げを「総合格闘技のようなもの」と表現しました。新規事業では、マーケティング、財務、戦略、オペレーション、組織など、企業活動を構成するさまざまな要素を同時に考えながら意思決定を進める必要があるためです。中原氏はそのプロセスを次のように説明しました。
「まず、その事業がどのような価値を提供するのかという存在意義を定義します。同時に、利用可能な人材・資金・技術といった経営資源を踏まえながら、どのように顧客へ価値を届けるかという業務プロセスを設計します。さらに、その事業が継続するためには、どのように収益を生み出すのかという収益構造も同時に検討する必要があります。」
新規事業を検討するプロセスでは、限られた資源の中で優先順位を決めながら意思決定を行う必要があり、まさに「何を選び、何を捨てるか」というトレードオフの判断を繰り返すことになります。複数の要素を同時に考える経験こそが、事業を俯瞰する力を鍛えると中原氏は述べました。
また中原氏は、知識を学ぶだけでは十分ではないとも改めて強調しました。ハーバード・ビジネス・スクールではケースメソッドを通じて、企業の意思決定を疑似体験する教育が行われていること、それでもなお、実際に手を動かして取り組む経験こそが重要であることを、次のベンジャミン・フランクリンの言葉を引用しながら伝えました。
「聞いたことは忘れる。教えられたことは覚えるかもしれない。しかし自分で実践したことは理解する。」
この言葉が示すように、事業を疑似体験するような実践的な学習こそが、ビジネスの全体像を理解するうえで有効だと説明しました。
AI時代こそ問われる、人が持つ判断力──前提知識がアウトプットを変える
セミナーでは、近年関心の高まるAI活用についても議論が行われました。
MBK Wellness株式会社 サイコム・ブレインズ事業本部の宮川が「AIを使えば新規事業も簡単に立案できるのではないかという議論も増えている」と問いかけると、やまがBASE 代表取締役CEOの中原氏は、AIは非常に有効なツールである一方、使い方によって成果が大きく変わることを次のように説明しました。
「同じAIに対して新規事業のアイデアを尋ねた場合でも、質問の仕方によってアウトプットの質が大きく変わります。例えば、「新規事業のアイデアを出してほしい」といった曖昧な指示では、現実的な前提条件が考慮されないまま、根拠の薄い事業計画が提示されることがあります。一方で、事業の目的や自社のリソース、競争環境などを踏まえて具体的に指示を出すと、より現実的な事業構想が提示されるようになります。」
中原氏は、この差はAIの性能ではなく、指示を出す人間の前提知識の差によって生まれると指摘しました。
そのため中原氏は、「AI時代にこそビジネスの全体構造を理解している人材の価値が高まる」と言います。AIは多くの情報を提示できますが、その内容が妥当かどうかを判断するためには、ビジネスの基本構造を理解している必要があるためです。
中原氏は、「AIは非常に強力なツールだが、適切な指示を出す力と、出てきた内容を評価する力がなければ十分に活用できない」と述べ、AI時代においても企業内でビジネス全体を俯瞰できる人材を育成する重要性を強調しました。
まとめ
企業の人材育成においては、個別スキルの習得だけでなく、事業を俯瞰して判断できる人材をどのように育てるかという視点がますます重要になります。当日のセミナーでは、MBA的な知識体系と実践的な学習を組み合わせることで、組織の意思決定力を高める人材育成の方向性が示されました。
こうした視点を踏まえ、サイコム・ブレインズではMBAの主要テーマを体系的に学ぶ映像教材や、経営判断をシミュレーション形式で体験できるプログラムなど、事業全体を俯瞰する力を養う研修を提供しています。研修設計やプログラムの詳細については、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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