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上司と部下の信頼関係を築く実践法――成功企業の事例と行動リストで学ぶ組織力強化の秘訣

「上司と部下の信頼関係が築けない」「本音を引き出せない」「若手との距離感がつかめない」──こうした悩みは、企業の人材育成や組織開発において日常的に聞かれる声です。  近年では、上司・部下双方の期待値が変化し、信頼のあり方も多様化しています。  一方、上司と部下間の信頼が組織の業績・生産性や社員のウェルビーイングに大きな影響を与えている状況は変わらず、ハイブリッド環境での信頼構築の課題と重要性が改めて注目されています。  

信頼関係構築は上司・部下相互に取り組み責任がありますが、とくに社会経験の少ない若手社員は、解決策がわからず、そのまま離職につながるケースが多いようです。  本稿では、信頼関係構築の重要性とその実践法を、上司・部下双方のアクションに焦点をあて、成功事例や行動リストとともに解説します。  

目次[非表示]

  1. 1.上司と部下の信頼状況
  2. 2.上司・部下の期待のギャップ
    1. 2.1.Z世代の理想は相談ができる上司
    2. 2.2.部下が求める「心理的安全性」と上司の誤解
    3. 2.3.信頼感が醸成される経験と行動
  3. 3.信頼関係を築く上司・部下のアクション設計
  4. 4.部下の行動習慣とボスマネジメント
    1. 4.1.信頼される部下の行動習慣
    2. 4.2.上司を動かす「ボスマネジメント」
  5. 5.企業の成功アプローチ
    1. 5.1.マルハニチロ: 指導における目的や背景の共有必須化
    2. 5.2.パナソニック: 明確な成長目標と評価、進捗の可視化
    3. 5.3.三井化学: フィードバックを通じた関係性改善
    4. 5.4.星野リゾート: 価値観共有と双方向対話の徹底
    5. 5.5.グッドパッチ: 心理的安全性の再構築による組織再生
  6. 6.まとめ
  7. 7.FAQ
  8. 8.参照・出典

上司と部下の信頼状況

信頼関係は単なる人間関係ではなく、組織の成果に直結する経営資源です。  ギャロップは「State of the Global Workplace 2025 」で、コロナ禍を背景に世界的にエンゲージメントが低下し、4,380億米ドルの生産性を損失したと発表しました。 テレワーク環境で、業務進捗や相手の気持ちがはかりにくくなったことに一因があるとされます。テレワークに関する実態調査(2020年)では、管理職の46.3%が「業務の進捗具合がわかりにくく不安だ」と回答、また「非対面は相手の気持ちが察しにくい」との問いに対し、あてはまると回答した割合は、部下側が39.5%、 管理職側は44.9%でした。

パーソル総合研究所と九州大学の「上司と部下の信頼関係に関する研究」(2025年)によると、上司・部下の相手への信頼感・被信頼感すべてが高いケースは26.4%、すべて低いケースは21.1%、一方で 「片思い(部下は信頼しているが上司が信頼を返さない)」が52.4%にのぼることが報告されています。

上司・部下の期待のギャップ

前出のパーソル総合研究所と九州大学の調査では、上司が部下を信頼する要因として、まず「メンバーからの被信頼感」、次いで、メンバーが迅速な返信や「報・連・相」を大切にし、リーダーから指示される前に自ら行動する傾向である「能動的忠実性」が強いとされています。 上司世代がいわば「自立した部下」を理想とする一方で、若手は「寄り添い型の上司」を求める傾向があります。 本章では、Z世代が組織の若手層を占めるようになったことで、上司・部下の互いへの期待にギャップが生まれている状況を解説します。

Z世代の理想は相談ができる上司

Z世代は「相談できる上司」を理想とし、上の世代は「報連相ができる部下」を理想とする傾向が明らかになっています。  SMBCコンシューマーファイナンスによる2025年の調査結果をもとにした、若手の「理想の上司像」と、上司・先輩世代の対応実績の比較をご紹介します。  

Z世代(18〜29歳)が求める理想の上司像

  • 仕事の相談ができる(34.4%)
  • 丁寧に教えてくれる(32.8%)
  • 具体的なアドバイスをくれる(31.6%)
  • 意見を聞いてくれる(30.6%)
  • 成果を褒めてくれる(30.4%)

密なコミュニケーションや対話を重視する傾向が強く、心理的安全性を求める姿勢が見られます。  

上司・先輩世代(30〜69歳)の若手への対応実態

  • 一緒に業務に取り組んでいる(29.2%)
  • 丁寧に教えている(26.2%)
  • 具体的にアドバイスしている(23.2%)
  • 意見を聞いている(23.0%)
  • 成果を褒めている(20.2%)
  • 相談に乗っている(19.6%)

若手の理想と比べて「相談に乗っている」は19.6%と低く、Z世代のニーズとのギャップが浮き彫りになっています。  

部下が求める「心理的安全性」と上司の誤解

Z世代は、多様性を重視して個人を尊重する教育を受けて育ち、自己肯定感を損なわない関係性を求めるため、叱責や失敗へのプレッシャーには敏感な傾向があります。  上司世代にすると、時に成果より心地よさ・安心感を優先する様子に、戸惑いを感じるかもしれません。  それらの様子を「やる気がない」と結論づけず、「共感」「傾聴」を行い、彼らが相談や提言を行いやすいと感じる、「心理的安全性」を醸成することが重要です。  

上司が覚えておくべきこと:

  • 「心理的安全性」は、単なる優しさではなく、率直な意見交換ができる環境のこと。  

  • 上司が「厳しさ=信頼」と誤解すると、部下は萎縮し、報告や相談が減少する。  

Z世代が柔軟な働き方・テレワークを重視し、相談しやすさと共感力を求める傾向が強いのに対し、そのうえのミレニアル世代はライフワークバランスを重視し、指導よりも対話型リーダーを好む傾向があります。  さらに上のバブル・団塊世代は「働けば報われる」という昭和型成功体験が根底にあるため、長時間労働を比較的厭わず、組織や上司への忠誠心を美徳とした、上下関係を明確にしたスタイルを好みます。  

各世代の社会的風潮や教育の違いを理解し、「責任感」「成果主義」「業務遂行力」を重視するあまり、部下の自律性を過小評価しないよう注意しましょう。  

信頼感が醸成される経験と行動

1on1での「約束を守る」「フィードバックを活かす」など、日常の積み重ねが信頼の土台となります。  成果を共有し、部下の貢献を認めることで、信頼感が強化されます。  

一方、信頼を壊すNG行動としては、部下の意見を無視した一方的な指示、約束の未履行、感情的な叱責、他者の前で部下を批判する、などがあげられます。  

無意識に行いがちなNG行動を避けるには「自分の言動を記録し、振り返る」習慣が有効です。  

 

 ▶表1: 上司が振り返るべき日々の行動項目

項目

チェックポイント

  コミュニケーション

  対話の時間を確保したか?傾聴し、部下の立場に立って理解を示すことができたか?

  フィードバック

  適切なタイミングで、成長を促す建設的なフィードバックができたか?

  公平性

  相手によって態度に差が出ていないか

  意思決定

  判断・価値感に一貫性があり、説明責任を果たしたか?

  評価

  成果だけでなく過程挑戦も含め、数字や事実に基づいて評価したか?

  感情管理

  感情的にならず冷静に対応できたか?

  成長支援

  相手の個性に応じて、成長に向けた行動を取ったか?

信頼を築く行動と壊す行動は紙一重のため、意識的な選択が重要になります。  毎日5分でも振り返ることは、部下との信頼関係やチームの成果に直結します。  習慣化のためには、日報や1on1に組み込んで、仕組化しましょう。  

信頼関係を築く上司・部下のアクション設計

頻度ごとに目的を明確にしたアクションを設計することで、信頼関係は戦略的に育成可能です。  日々の接点で信頼を育み、「信頼の見える化」と「育成の場」として週次の場を活用し、月次では「信頼の再確認」と「期待の明文化」を行いましょう。  四半期は「信頼の棚卸し」と「関係性の再設計」のタイミングです。  

▶表2: 頻度別アクション設計案

フェーズ

頻度

行動

目的

信頼の醸成

日次

挨拶、感謝、進捗確認、雑談、日報

親近感・安心感の醸成、「話せる関係」の構築、モチベーション維持

信頼の見える化

育成の場

週次

1on1(30分程度)、フィードバック(成果・行動)、チームミーティングでの発言機会提供

成長促進、課題・期待・方向性のすり合わせ、自主性の尊重

信頼の再確認

期待の明文化

月次

月次レビュー(KPT・PDCA)、目標の再確認と調整

成果の評価、改善点の共有、方向性の一致、納得感の醸成

信頼の棚卸し

関係性の再設計

四半期

評価面談、キャリア相談

長期的な信頼の構築、将来像の共有

部下の行動習慣とボスマネジメント

既出の通り、 部下は上司を信頼しているが上司は部下を信頼していないケースは過半数にのぼります。 信頼される部下は、単に「仕事ができる人」ではなく、上司が安心して任せられる人です。  そのためには、部下が日々の行動に「誠実さ」「対話力」「責任感」を込めることが何より重要です。  

信頼される部下の行動習慣

冒頭で触れた調査では、上司は部下の職務遂行能力に期待する傾向があり、言われたことを着実にこなす事よりも、問われる前に自ら報告や相談をしたり、依頼事項へ早く応答したりといった能動的な行動が上司からの信頼獲得には有効であることが報告されています。 さらに、1on1の機会において、メンバー側から自分らしさを表明し、個人的な相談などを持ち掛けることが上司にとっては、「メンバーから信頼されている」と自覚する機会ともなっていたとされます。

本章で紹介する行動は「能力」よりも「姿勢」に近く、誰でも意識すれば実践可能です。  上司の行動で勧めたように、毎日5分でもよいので行動の振り返りをしましょう。 Z世代は、端的なチャットコミュニケーションへの慣れから説明を苦手としたり、発言への評価に敏感なため沈黙や短答に終始しがちな傾向があります。 質問数も他世代に比べてかなり少なく、上司が「本当にわかっているのか」と不安になるケースが散見されます。 上司への報告は、「上司が知りたいことはなにか」を踏まえて報告内容を考え、こまめに行いましょう。 指示を受けたら、不明点がない場合でも、作業の目的や進め方、期限、中間報告のタイミングなどの要点の理解があっているか、確認の質問を行うことをおすすめします。

 ▶表3: 信頼形成のため部下が習慣化すべき行動

行動習慣

内容

目的

  報連相のタイミングと質を高める

  事前報告・途中経過・完了報告を簡潔に

  上司の安心感と業務の透明性を確保

  約束・期限を守る

  小さな約束でも厳守する

  信頼の土台となる「責任感」の証明

  ミスを隠さず報告する

  早期報告+改善策の提示

  誠実さと問題解決力のアピール

  上司の意図を汲み取る質問をする

  「この目的は何ですか?」など

  対話力と理解力の向上、納得感の醸成

  感謝と敬意を言葉にする

  「ありがとうございます」「助かりました」

  関係性の質を高める信頼の潤滑油

参考) 信頼されない部下のNG習慣

  • 報告が遅い・抜け漏れが多い

  • 言い訳や責任転嫁が多い

  • 上司の指示を受け流す・反応が薄い

  • 感情的な反発や無言の抵抗

  • 成果だけを主張し、プロセスを語らない

信頼は「積み重ね」であり、1つのミスよりも「日々の姿勢」が評価されます。  習慣化させるためには、上司のフィードバックを素直に受け止める姿勢を持つとともに、日報や週報に「振り返り欄」を設けたり、1on1で「信頼行動チェックリスト」を活用するのもおすすめです。  

上司を動かす「ボスマネジメント」

ボスマネジメントとは、部下が上司との関係を戦略的に構築し、仕事を円滑に進めるために能動的に働きかけるスキルや姿勢のことで、キャリア形成や職場のストレス軽減の観点からも注目されています。  従来の「上司が部下をマネジメントする」構図とは逆で、部下が上司を理解し、動かし、協働関係を築くことが目的です。  上司から信頼を得る基本行動が習得できたら、部下自身の成長のために、ぜひおさえてほしい考え方です。  

ボスマネジメントの定義

部下が自身の業務やキャリア目標を達成するために、上司に対して能動的・戦略的に働きかけること

ボスマネジメントの背景

  • 上司との関係が職場ストレスの最大要因であるという調査結果
  • 上司は選べないが、関係性は設計できるという考え方
  • 米国では「上司は顧客」と捉える文化もある

 ▶表4: ボスマネジメントの具体的行動例

行動

目的

  上司の価値観・目標を理解する

  意思決定や優先事項に沿った行動ができる

  コミュニケーションスタイルに合わせる

  報告・相談の質を高める

  自分の強み・希望を明示する

  適切な業務配分や支援を得る

  上司の課題やストレスを察知する

  サポートや信頼獲得につながる

  フィードバックを求める

  成長機会の獲得と関係性の強化

「上司をコントロールする」のではなく、「上司との関係性を自ら設計する」ことはが本質です。  

ボスマネジメントのメリット

  • 上司との信頼関係が深まり、業務が円滑に進む

  • キャリア形成に必要な支援や機会を得やすくなる

  • 評価や配属において不利になりにくい

  • 無駄なストレスが減り、成果に集中できる

ボスマネジメントは、特に中間管理職や若手社員にとって「上司との関係性を自分でデザインする力」として重要です。  上司のタイプに応じたアプローチ(例:耳から派・目から派)を使い分けることで、より効果的な関係構築が可能になります。

企業の成功アプローチ

上司・部下の関係性構築に成功した事例では共通して、制度と個人行動の連動(OJT+フィードバックや面談+配置)、信頼を可視化する仕組み(エンゲージメント調査、育成進捗管理等)、さらに部下の主体性を引き出す挑戦機会や裁量委譲の設計が見られます。  

マルハニチロ: 指導における目的や背景の共有必須化

Z世代は透明性と背景説明を重視し、 「なぜその指示があるのか」「目的は何か」を理解したい傾向が強く、背景が不明確だと納得感を持ちにくいことがわかっています。 マルハニチロでは、OJTを単なる「やってみせる」ではなく、「なぜそうするのか」を説明するスタイルに刷新。  育成者が業務の背景や目的を共有することで、部下の自律性と納得感が向上し、結果、若手社員の定着率が改善しました。

パナソニック: 明確な成長目標と評価、進捗の可視化

Z世代は承認欲求が強く、こまめなフィードバックや成果の可視化がモチベーションにつながります。 パナソニックでは、職種ごとに育成目標を明確化のうえ研修と評価を連動させ、タレントマネジメントシステムで育成進捗を可視化。  この結果、管理職候補者の育成期間を短縮することができました。

三井化学: フィードバックを通じた関係性改善

前述したようにZ世代は叱責や失敗へのプレッシャーには敏感なため、上司の改善指導も言い方によって、萎縮や上司とのコミュニケーション回避につながることがあります。 また曖昧な指示やフィードバックには、ストレスを感じやすいです。 三井化学では、上司との関係性を改善するため、部下向けに「フィードバックの受け方・返し方」研修を導入し、上司に対しても「受け止める力」を育成するプログラムを併設。  この結果、部下からの信頼度が向上しました。

星野リゾート: 価値観共有と双方向対話の徹底

Z世代は個性や価値観を尊重する教育を受けて育っているため、組織の規律に従うより、自己表現を尊重されたり、自分の強みを活かせることを重視します。 星野リゾートでは、上司・部下間で「自分の価値観」と「組織の価値観」をすり合わせるワークショップを実施し、双方向のフィードバック文化を根付かせました。 この結果、離職率を大幅に引き下げることに成功しました。

グッドパッチ: 心理的安全性の再構築による組織再生

グッドパッチでは、組織崩壊を経験後、バリューの再定義と上司・部下の関係性改善に注力し、部下が上司を支援する文化を醸成させました。 同社は4年後には上場を達成し、社員満足度も飛躍的に向上しています。

まとめ

上司と部下の信頼関係は、組織成果に直結する重要な要素です。  信頼は「心理的安全性」「期待のすり合わせ」「小さな成功体験の積み重ね」によって醸成されます。  上司・部下双方が行動リストを意識し、頻度を意識して実践することで、関係性は着実に改善されます。  部下も上司からのアクションを待つのではなく、上司からの信頼を得るための行動を習慣化させ、さらに上司を戦略的に動かせることが期待されます。   

継続的なリスキル・アップスキルが求められる現代では、専門性やスキルレベルは必ずしも年次や階層に依存しません。 多様なメンバーが世代や立場を超えて支援しあう文化の醸成は、組織成果最大化の鍵です。 制度や風土の設計を通じて組織文化を根付かせ、持続的な成果につなげましょう。

FAQ

Q1: 信頼関係が築けない部下にはどう接すればよい?

 A: まずは「約束を守る」「傾聴する」など基本行動を徹底し、信頼の土台を築くことが重要です。  焦らず、継続的な対話を心がけましょう。  

Q2: 1on1ミーティングで信頼を深めるには?

 A: 雑談から入り、部下の価値観や悩みに耳を傾けることが効果的です。  議事録を残し、次回に活かすことで継続性が生まれます。  

Q3: 信頼関係が業績にどう影響するの?

 A: ギャラップ社の調査では、信頼度の高い職場は生産性が21%向上し、離職率が24%低下する傾向があります。  

Q4: 部下が習慣化すべき行動とは?

 A: 報連相の徹底、期日厳守、上司の意図を汲む行動など、信頼を得るための基本行動を指します。  

Q5: ボスマネジメントは部下がやるべきなの?

 A:はい。  上司の強み・弱みを理解し、情報提供や相談のタイミングを調整することで、信頼と裁量を得やすくなります

Q6: 信頼構築を制度化するには?

 A: 1on1制度、エンゲージメント調査、キャリア面談などを導入し、継続的な対話と評価を仕組みに組み込むことが有効です。 

Q7: 信頼関係が壊れた場合のリカバリー方法は?

 A: まずは謝罪と説明を行い、信頼を損なった行動を明確に認識すること。  再発防止策を共有し、行動で示すことが重要です。  

参照・出典

宮下 洋子
宮下 洋子
同志社大学文学部卒業、TiasNimbus Business School(オランダ)MBA。兵庫県神戸市出身 サイコム・ブレインズにて若手から経営層、海外ナショナルスタッフまで幅広い層を対象に、育成ソリューションの企画・提供に従事。その後コンサルティングファームにてDX人材・(デジタル)マーケティング人材の育成、タレントマネジメント制度構築、人事総務改革、業務改善・効率化(BPR・BPO)等に携わり、事業・業務の変化トレンドをおさえた機動的な人材育成・組織改革に注力する。

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