
「叱れない上司」が増えた理由とは?心理的安全性時代のマネジメントと部下が成長する叱り方
「最近、部下を叱れない」。企業の管理職からよく聞かれる悩みのひとつです。パワハラ防止への意識が高まる一方で、「どこまで言っていいのか分からない」「指摘すると関係が悪くなるのではないか」と感じる上司は少なくありません。
さらに、心理的安全性や失敗を許容する文化、グロースマインドセットといった考え方が広まり、「叱ることは時代遅れなのではないか」と感じる人もいます。
しかし、これらの概念と「叱らないこと」は必ずしも同じではありません。適切なフィードバックや指導は、部下の成長と組織の成果にとって重要な役割を持っています。
本記事では、「叱れない上司」が増えた背景とともに、心理的安全性時代に求められる指導のあり方を整理し、部下が納得して受け入れやすい叱り方のポイントを解説します。
目次[非表示]
- 1.なぜ「叱れない上司」が増えているのか
- 1.1.パワハラ防止の意識の高まり
- 1.2.世代価値観の変化
- 2.以前はなぜ上司は部下を叱れたのか
- 3.上司が部下を叱ることは本当に必要なのか
- 4.心理的安全性・グロースマインドセットと「叱る」の関係
- 5.叱れない上司がやってしまうNG行動5つ
- 5.1.NG① 見て見ぬふりをする
- 5.2.NG② 遠回しにしか伝えない
- 5.3.NG③ 感情が溜まってから叱る
- 5.4.NG④ 人によって対応を変える
- 5.5.NG⑤ 叱る代わりに自分で仕事を抱える
- 6.部下が受け入れやすい叱り方の基本原則
- 7.叱る場面を減らす日常マネジメント
- 8.まとめ
- 9.FAQ
- 10.サイコム・ブレインズの関連ソリューション
- 11.参照・出典
なぜ「叱れない上司」が増えているのか
近年、多くの企業で「部下を叱れない」という管理職の悩みが聞かれるようになりました。これは単に個人の指導力の問題ではなく、職場環境や社会の変化と密接に関係しています。まずはその背景を整理します。
パワハラ防止の意識の高まり
2020年のパワハラ防止法の施行以降、企業ではハラスメント対策が強化されました。厚生労働省は、パワーハラスメントを「優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超えるもの」と定義しています。
その結果、多くの管理職が
- 厳しく指導するとハラスメントになるのではないか
- 部下との関係が悪化するのではないか
と不安を感じるようになりました。
本来、業務上必要な指導はパワハラではありません。しかし現場では判断が難しいため、 「何も言わないほうが安全」という心理が働きやすくなっています。
世代価値観の変化
もう一つの背景は、若手社員の価値観の変化です。
近年は
- ワークライフバランス重視
- 納得感のある仕事
- フラットなコミュニケーション
といった価値観が広がっています。
そのため、従来のような「厳しく叱って育てる」という指導スタイルは受け入れられにくくなっています。上司側もこの変化を感じ取り、指導に慎重になる傾向があります。
▶表1:叱れない上司が増えている背景
要因 | 内容 | 解説 |
|---|---|---|
パワハラ対策 | 法制度強化 | 指導への心理的ハードル |
世代ギャップ | 若手価値観の変化 | 厳しい指導が敬遠される |
業務負担 | プレイングマネジャー | 指導時間が不足 |
以前はなぜ上司は部下を叱れたのか
かつての日本企業では、上司が部下を厳しく指導することが一般的でした。その背景には、企業の人材モデルや職場文化の違いがあります。
終身雇用と長期育成
以前の企業は終身雇用が前提であり、社員は長期的に育成される存在でした。そのため、多少厳しい指導であっても「育ててもらっている」という認識が共有されていました。叱責は単なる批判ではなく、 成長のための指導として受け止められることが多かったのです。
明確な上下関係
かつての職場では、上下関係が明確でした。
上司
↓
先輩
↓
新人
この構造では
- 上司は指導する立場
- 部下は学ぶ立場
という役割が共有されていました。
現在はフラット化が進み、 権威だけで指導することが難しくなっています。
▶表2:職場文化の変化
昔の職場 | 現在の職場 |
|---|---|
終身雇用 | 転職前提 |
階層型組織 | フラット組織 |
我慢文化 | 納得文化 |
上司が部下を叱ることは本当に必要なのか
近年、「叱らないマネジメント」という言葉が広く知られるようになりました。そのため、「部下を叱ることは時代遅れではないか」と感じる管理職も少なくありません。しかし、叱ることを完全に否定する考え方が主流になっているわけではありません。ここでは、叱ることの役割と「叱らないマネジメント」との関係を整理します。
「叱らないマネジメント」が意味するもの
近年のマネジメントでは、従来のように感情的に叱責する指導ではなく、 対話やフィードバックを重視するマネジメントが注目されています。これが一般に「叱らないマネジメント」と呼ばれるものです。この考え方が広まった背景には、いくつかの要因があります。
- パワーハラスメントへの社会的関心の高まり
- 若手社員の価値観の変化
- 心理的安全性の重要性の認識
従来の叱責型マネジメントでは、短期的には行動を変えられることもありますが、長期的には
- 萎縮
- 意見を言わなくなる
- 挑戦を避ける
といった副作用が生じる可能性があります。
そのため近年は、叱責ではなく 対話によるフィードバックを重視するマネジメントが推奨されるようになっています。ただし、ここで注意が必要なのは、 「叱らないマネジメント」とは部下の問題行動を放置することではないという点です。
行動改善のためのフィードバックは不可欠
マネジメントの目的は、チームの成果を高めることと、メンバーの成長を支援することです。そのためには、問題行動や改善点を伝えることは避けて通れません。
例えば次のような状況を考えてみます。
- 納期が守られない
- 報告が遅れる
- 同じミスを繰り返す
これらを「叱らない」という理由で放置してしまうと、本人の成長機会が失われるだけでなく、チーム全体にも影響が及びます。また、問題行動を放置すると、周囲のメンバーにとっては「注意されないならやらなくてもよい」というメッセージにもなりかねません。
結果として、組織全体の規律やモチベーションが低下する可能性があります。そのため重要なのは、 叱るかどうかではなく、どのようにフィードバックするかという視点です。
▶図1:問題行動を放置した場合の影響

「叱責」から「学習フィードバック」へ
近年のマネジメント研究では、叱責よりも学習を促すフィードバックが重視されています。
心理的安全性の研究でも、チームの成果を高めるためには
- ミスを共有できる
- 改善を率直に話し合える
環境が重要だとされています。
このような環境では、上司は部下に対して「なぜうまくいかなかったのか」「次はどう改善できるのか」を一緒に考える役割を担います。つまり、マネジメントの役割は 叱ることではなく、学習を促すことだと言えるでしょう。
そのため、従来のような
- 感情的な叱責
- 人格を否定する言葉
は避ける必要があります。一方で、改善点を伝えるフィードバック自体は、むしろ成長にとって不可欠です。
▶ 表3:3つのマネジメントスタイルの違い
指導スタイル | 特徴 | 結果 |
|---|---|---|
叱責型マネジメント | 感情的な叱責 | 萎縮・挑戦回避 |
放置型マネジメント | 何も言わない | 成長機会の喪失 |
フィードバック型マネジメント | 行動改善の対話 | 学習と成長 |
心理的安全性・グロースマインドセットと「叱る」の関係
近年のマネジメントでは、心理的安全性やグロースマインドセットなどの考え方が注目されています。しかしこれらは「叱ってはいけない」という意味ではありません。
心理的安全性は「何も言わないこと」ではない
心理的安全性とは、意見や疑問を安心して言える状態を指します。
重要なのは
- ミスを指摘できる
- 改善を議論できる
環境があることです。つまり心理的安全性とは、 率直なフィードバックが可能な状態とも言えます。問題を指摘しない状態は、心理的安全性とは異なります。
グロースマインドセットとフィードバック
グロースマインドセットとは、「能力は努力と学習によって伸びる」という考え方です。
この考え方では
- 挑戦
- フィードバック
- 振り返り
が重要になります。そのため、改善点を伝えることはむしろ 成長を支援する行為と考えられます。
▶ 表4:マネジメント概念の誤解
誤解 | 本来の意味 |
|---|---|
失敗を許容=叱らない | 学習機会として振り返る |
心理的安全性=何も言わない | 指摘できる環境 |
成長マインド=自由 | フィードバックで成長 |
叱れない上司がやってしまうNG行動5つ
叱れない上司の問題は「叱らないこと」そのものではありません。問題は、指導を避けることで組織や部下の成長機会が失われてしまうことです。ここでは、管理職が陥りやすい代表的なNG行動を整理します。
NG① 見て見ぬふりをする
部下のミスや問題行動に気づいていても、指摘を避けるケースです。
例えば次のような状況です。
- 提出物が遅れている
- 会議準備が不十分
- 報告が不足している
こうした状況を放置すると、チーム全体の基準が曖昧になります。
例
NG上司「まあ今回はいいか…」
OK上司「今回の資料提出が遅れた理由を確認させてほしい。」
NG② 遠回しにしか伝えない
叱ることを避けるため、問題点を曖昧に伝えてしまうケースです。
例
NG「もう少し気をつけてもらえると助かるかな」
これでは何を改善すべきか伝わりません。
OK「今回の提案書はデータ出典が不足していた。次回は必ず根拠データを添付してほしい。」
NG③ 感情が溜まってから叱る
指摘を我慢し続けた結果、ある日突然強く叱ってしまうケースです。この場合、部下は「なぜ急に怒られたのか」と感じてしまいます。
NG④ 人によって対応を変える
叱りやすい部下だけ叱るケースです。
例えば、
- 若手だけ叱る
- 年上部下には何も言えない
こうした対応は組織の公平性を損ないます。
NG⑤ 叱る代わりに自分で仕事を抱える
叱れない上司は、部下に任せる代わりに自分で仕事を処理してしまうことがあります。
しかしこの行動は、
- 上司の負担増加
- 部下の成長機会の喪失
という問題を生みます。
部下が受け入れやすい叱り方の基本原則
叱ること自体が問題なのではなく、伝え方が重要です。部下が納得しやすい叱り方にはいくつかの共通点があります。
行動に焦点を当てる
NG「君は本当にダメだ」
OK「今回の報告が期限を過ぎていた」
人格ではなく 行動を指摘することが重要です。
これにより
- 攻撃されたと感じにくい
- 改善点が明確になる
という効果があります。
期待を伝える
叱る際には「あなたならできると思っている」という期待も伝えることが重要です。期待を伝えることで、叱責は単なる否定ではなく成長支援のメッセージになります。
▶表4:叱り方の違い
NG | OK |
|---|---|
人格批判 | 行動指摘 |
感情的 | 事実 |
一方的 | 対話 |
叱る場面を減らす日常マネジメント
実は優れたマネジャーほど、叱る場面は多くありません。日常のマネジメントによって問題を未然に防いでいるためです。
期待値の共有
多くのトラブルは、期待の不一致から生まれます。
例えば
- 成果の基準
- 納期
- 判断基準
などを事前に共有しておくことで、ミスは大きく減ります。
日常フィードバック
良い行動や改善点を日常的に伝えることも重要です。
これにより
- 信頼関係が生まれる
- 指導が受け入れられやすくなる
という効果があります。
まとめ
「叱れない上司」が増えている背景には、パワハラ対策の強化や価値観の変化があります。しかし、適切な指導やフィードバックは部下の成長と組織の成果にとって重要です。
重要なのは「叱るかどうか」ではなく、 どのようにフィードバックするかです。
- 行動に焦点を当てる
- 事実ベースで伝える
- 期待をセットで伝える
- 日常的なフィードバックを増やす
これらを意識することで、上司と部下の信頼関係を保ちながら効果的なマネジメントが可能になります。
FAQ
Q1 上司が部下を叱ることはパワハラになりますか
業務上必要な範囲での指導はパワハラには該当しません。ただし人格否定や過度な叱責は問題となる可能性があります。
Q2 若手社員は叱られるのが苦手なのでしょうか
多くの場合、叱ること自体よりも「理由が分からない指摘」に不満を感じます。納得感のある説明が重要です。
Q3 心理的安全性のある職場では叱らないのでしょうか
心理的安全性とは、率直に意見や指摘を言える環境を指します。問題を指摘しないことではありません。
Q4 叱るのが苦手な上司はどうすればよいですか
まずは事実ベースのフィードバックから始めるとよいでしょう。感情ではなく行動と影響を伝えることがポイントです。
Q5 叱ると部下との関係が悪くなるのではないでしょうか
日常的なコミュニケーションと信頼関係があれば、指導は受け入れられやすくなります。
サイコム・ブレインズの関連ソリューション
【動画ライブラリ】【即学】部下育成のマネジメント
【まなラン】コーチング&フィードバック
参照・出典
Amy Edmondson
The Fearless Organization
Carol Dweck
Mindset: The New Psychology of Success
Google
Project Aristotle



