
管理職の役割とは? プレイヤーからマネージャーに昇格した際に求められる5つの視点
多くの企業で「管理職になってもプレイヤー意識が抜けない」「昔ながらのやり方では通用していない」といった悩みが増えています。市場変化が激しく、組織がフラット化し、年齢構成も多様化する現在、管理職に求められる役割は過去10年で大きく変わりました。本記事では、プレイヤーからマネージャーへ転換する際に押さえるべき「5つの視点」を最新のマネジメント知見と企業事例に基づいて整理しました。
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今、管理職の役割をアップデートする必要がある理由
本章では、管理職像が変化せざるを得ない環境要因を整理します。なぜ従来型マネジメントが機能しづらくなったのかを把握することで、後半で紹介する「5つの視点」の必然性が明確になります。
市場・組織環境の変化が管理職像を変えた
過去10年で、管理職を取り巻く環境は激変しました。デジタル化による業務スピードの高速化、フラットな組織構造、副業や越境学習など多様な働き方の広がりにより、従来の「上から管理する」モデルは限界が見えています。人材マネジメントの中心が「管理から自律支援」に移行する傾向にあること、また、最新のマネジメント要件は、心理的安全性、1on1、権限委譲など、管理職に求められる役割が従来と大きく異なってきている、などが言われています。これらの変化は、管理職が固定観念のままでは成果を出せない環境になったことを意味します。
日本企業で起きている「管理職の機能不全」
厚生労働省「働き方と職場のコミュニケーション調査」(2022年)では、多くの管理職が「業務過多でマネジメントに時間を割けない」と回答しています。また、職場のコミュニケーション不足や育成の遅れも指摘されており、管理職が組織のボトルネックになるケースも散見されます。さらに、多くの企業ではプレイヤー優秀者がそのまま管理職に昇格するため、視座転換が不十分なまま現場を回す構造的課題があります。その結果、「自分でやったほうが早い」「部下が育たない」「組織開発に手が回らない」という悪循環が発生します。こうした状況を断ち切るには、管理職の役割を明確に再定義し、意識・行動を変える仕組みが不可欠です。
▶図1:市場変化の加速による従来型管理職の限界

視点①:視座の転換 — プレイヤー視点から経営・組織視点へ
管理職への昇格で最も重要なのが「視座の転換」です。本章では、プレイヤー視点の限界と、管理職が持つべき複数視座の具体的な使い分けを整理します。
プレイヤーが陥りやすい3つの視野の限界
プレイヤーが昇格後に最も陥りやすいのが、「自分の成果が正義になる」状態です。これは以下の3つの視野の限界に起因します。
1.自分軸の短期視点:成果を早く出すため、組織全体より自分のタスクを優先しがち。
2.現場最適の視点:目の前の顧客要望には強いが、部署間連携や全社最適に弱い。
3.属人的ノウハウ依存:自分の成功体験を他者へ押し付けてしまい、育成が進まない。
この状態では、組織成果の最大化どころか、プレイヤーとしての成功が逆にマネジメントの阻害要因になることがあります。管理職として成果を出すには、自分視点から組織、未来、全体最適へと視座を引き上げる必要があります。
管理職に求められる「複数視座の持ち方」
ドラッカーは「マネージャーは組織の成果に責任を持つ唯一の存在」と指摘しています(『The Practice of Management』1954)。これは、管理職が複数の視座を自在に行き来しなければ成果が出ないことを意味します。
具体的には以下の3つの視座が必要です。
①経営視座:全社最適で意思決定する
自部門の予算・リソースだけでなく、事業全体の影響で判断する。
②組織視座:部門としての役割を果たす
部門間調整・戦略遂行を担い、組織戦略を現場に翻訳する。
③個人視座:部下の状況を理解する
個人の動機・スキル・心理状況を把握し支援する。
これらは「どれが正しい」ではありません。状況に応じて切り替えるようにし、その柔軟性こそが管理職の基本能力と言えます。
▶図2:管理職に求められる3つの視座

視点②:役割の転換 — 実務遂行者から成果プロセスのマネージャーへ
管理職に昇格した直後に最もつまずきやすいのが「自分が実務をこなすこと」と「メンバーを通じて成果を出すこと」の混同です。本章では、成果プロセスを設計・改善するマネージャーとしての役割を明確化し、今日の複雑な環境下で必要なマネジメント行動を整理します。
管理職が陥りがちな「プレイング過多」の構造と脱却ポイント
多くの新任管理職が、昇格後も「自分が一番早く、正確にできる」ため、実務を抱え込みがちです。特に専門性の高い職種(営業・エンジニア・企画など)ほどこの傾向は強く、結果として「①業務過多/②メンバー育成の遅れ/③組織成果の毀損」が同時に発生します。
脱却の第一歩は、「成果=自分のアウトプット」ではなく、「成果=チームのアウトプット」という定義に切り替えることです。そのうえで、業務を「自分がやるべき」「任せるべき」「任せながら支援すべき」の三層に分類し、仕事の再配分に踏み切る必要があります。特に、任せる際は目的、期待値、期限、判断基準をセットで共有し、途中の過干渉と放置を防ぐ仕組みが不可欠です。
成果が出るプロセスを設計する
成果を「管理職の再現性ある仕事」に変えるには、プロセス設計が欠かせません。まず最上位目標である「ゴール」を明確化し、それに到達するための中間指標である「KPI」を構築します。さらに、KPIを達成するための行動基準、頻度、品質を「行動KPI」として定義し、個人・チーム双方で可視化します。
次に、週次または隔週のリズムで「進捗の振り返り」を行い、上手くいった点、滞っている点、次の手を明確にします。その際、管理職が直接答えを提示するのではなく、質問を通じて思考を促すコーチング型のコミュニケーションを採用することで、自走力の高いチームに進化します。これらのステップを回すことで、成果の偶然性ではなく、必然性を期待することができます。
▶図3:プロセスを管理できるマネージャーへ

視点③:コミュニケーションの転換 — 指示型からコーチング型へ
本章では、管理職が「仕事を指示する人」から「成長を支援するコーチ」へと移行するための視点を整理します。多様化・専門化が進む現在、部下の主体性を引き出し、成果につながる思考を促すコミュニケーションが不可欠となっています。
部下の自律性を引き出す「問いかけ型」コミュニケーションの基本
従来の管理職像は、経験と知見をもとに「答えを指示する」スタイルが主流でした。しかしながら、情報が高度に専門化・分散化した現在、常に正解を持っているマネージャーは存在しません。部下は異なる専門性を持ち、働き方も多様化しているため、指示型では思考が止まり、主体的な行動が生まれにくくなります。
そこで、有効なのが GROWモデル をはじめとする問いかけのフレームです。「Goal(目標)」「Reality(現状)」「Options(選択肢)」「Will(意思)」を軸に対話を進めると、部下自身が思考プロセスを言語化し、行動のオーナーシップを持ちやすくなります。
1on1の質を高める具体施策:構造 × 習慣 × 記録
1on1は「メンバーの成長支援」と「組織課題の早期発見」の両軸を持ちますが、形式化すると効果が薄れていきます。質を高めるためには、①構造化、②習慣化、③記録管理の3点が重要になってきます。
まず「構造化」では、目的を「日報確認」ではなく「成長テーマの対話」とし、アジェンダを事前共有します。特にテーマ設定は、本人のキャリア意向と組織の方向性をつなぐ形で行います。
次に「習慣化」は、月1回の固定スケジュール化が有効で、直前キャンセルを防ぐために「優先順位を下げない文化」づくりが必要です。
最後に「記録管理」は、対話内容と次のアクションを簡潔に残し、フォローの漏れを防ぎます。記録は人事制度の評価とは切り離すことで、心理的安全性を維持しやすくします。
これらが機能すると、1on1は単なる面談ではなく、チームの学習サイクルを回す重要な装置となり得ます。
▶図4:問いを重視してメンバーの思考を整理する
GROWモデルの4ステップを用いると、部下が思考を整理し主体的に行動を選択しやすくなります。
視点④:組織運営の転換 — 縦の統率からネットワーク型の協働へ
リモートワーク、専門性の高度化、プロジェクト横断型の業務増加により、管理職は「縦のライン」だけでは組織を動かせません。ここでは、部門を越えたネットワーク型マネジメントに必要な視点を整理します。
組織構造の変化が管理職像を変える
近年の企業では、固定的な部門組織よりも、課題解決ごとにメンバーが集まる「プロジェクト型」「ネットワーク型」が主流になりつつあります。近年では、企業競争力の源泉が「専門性×横断協働」に移ったと指摘されています。管理職は、自部門だけの最適化ではなく、他部門のリソースや情報をつなぎ、総合力を引き出す役割に変わりました。特に、中間層の管理職は「組織のハブ」としての重要性が増しており、意思決定の速度と質はネットワークの広さに比例します。従来の「部門の壁」で動くモデルから、「全社視点での共同創造」を促せる管理職が求められています。
ネットワーク型の管理職が実践している行動
ネットワーク型マネジメントができる管理職には、共通した行動習慣があります。例えば、(1)自部門の情報を積極的に共有し、透明性を高める、(2)他部門の優れたナレッジを取り入れる「越境学習」を促す、(3)プロジェクト立ち上げや問題解決の場でファシリテーターとして動く、などです。また、組織横断で動けるリーダーほど「心理的安全性の形成」が得意であると言われています。縦の指示系統だけでは越境協働は生まれません。組織横断の協働を目指すならば、信頼関係、専門性の理解、目的の共有が不可欠です。管理職自身が「ネットワークの結節点」としてふるまうことで、組織全体の課題解決力が向上します。
▶図5:縦型マネジメントとネットワーク型マネジメントの比較

視点⑤:人材育成の転換 — OJT中心から自律型人材開発へ
管理職の重要な役割の一つが人材育成です。成熟した組織では「教える」「管理する」だけでは人は育ちません。ここでは、自律型人材を育てるための管理職の視点を整理します。
自律型人材を育てる管理職の関わり方
従来のOJTモデルでは、管理職が手取り足取り教え、メンバーは指示に従って動くことが多く見られました。しかし、変化が速い現代では管理職がすべてを把握し教えることは困難です。「自律型人材が成果に寄与する」と指摘している企業もあり、管理職は「答えを与えるのではなく、問いを立てる」役割へシフトしています。部下と目線を合わせながら、管理職からの問いを中心に、課題を自身で設定できるような支援、現状を打破するヒントに気づいたりできるような支援が大切になります。
育成文化を醸成するために管理職がすべきこと
管理職の育成行動を「個人の工夫」に任せてしまうと、育成の質にばらつきが生じます。そのため、管理職はチーム内に「育成が当たり前」の文化を形成する必要があります。具体的には、(1)日常の1on1で学びを言語化させる、(2)小さな成功経験を積ませて自己効力感を高める、(3)プロジェクトや社外研修参画などの越境の機会を提供する、(4)役割期待を明確化し成長の方向性を示す、などです。また、厚生労働省の調査によれば、部下のエンゲージメントは「育成されている実感」と強く相関しています。管理職が育成文化をつくることは、個人の成長だけでなく離職防止にも効果的です。
▶図6:自律した人材を育てるために取り組むステップ

まとめ
管理職の役割は、かつての「実務能力の高いプレイヤー」から大きく変化しています。現代の管理職に求められるのは、①視座の転換、②役割の再定義、③コーチング型コミュニケーション、④ネットワーク型の協働、⑤自律型人材育成という5つの視点です。これらはどれも「自然には身につかない」スキルであり、組織的な育成と環境整備が欠かせません。特にプレイヤー意識が抜けない管理職に対しては、役割の再定義を明文化し、実践的な学習機会を継続的に提供することが重要です。管理職がこの5視点を体得すれば、チームは自律的に動き、変化に強い組織が生まれます。
FAQ(5問)
Q1:管理職がプレイヤー意識から抜けられないのはなぜですか?
A:昇格直後は「これまでの成功体験」が強く影響し、プレイヤーとしての役割を手放しにくくなります。また、組織が管理職向けに役割期待を明文化していないことも一因です。対策としては、役割の再定義、行動基準の明文化、1on1での振り返りが効果的です。
Q2:管理職教育は研修とOJTのどちらに重点を置くべきでしょうか?
A:両輪が不可欠です。研修で原理原則を学び、現場で実践しながら定着させます。特に1on1やチーム運営は「やってみて改善」が必須の領域であり、研修だけでは定着しません。
Q3:ネットワーク型のマネジメントはどの職種でも必要ですか?
A:程度は異なりますが必須です。営業は顧客情報の共有、製造は工程改善の横断協働、人事は他部門支援など、職種ごとにネットワーク活用が求められます。
Q4:管理職がコーチングを習得する上での最初のステップは?
A:まずは「質問で相手の思考を促す」ことを意識することです。問題解決のフレームのような構造化されたフレームを使うと会話がスムーズになります。
Q5:管理職の負荷が増えることが心配です。どう考えるべきですか?
A:短期的には負荷が増えますが、自律型人材が育つことで徐々に負荷は減少します。管理職一人の努力に依存するのではなく、組織的に育成文化をつくることが重要です。
引用・参照元とURL一覧
1.Peter F. Drucker, The Practice of Management, Harper & Row, 1954.
2.経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」2020年公開。
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220513001/20220513001.html
3.Google re:Work, “Guide: Set Goals with OKRs”, 2019.
https://rework.withgoogle.com/intl/en/guides/set-goals-with-okrs
4.Harvard Business Review, “The Leader as Coach”, 2021.
5.厚生労働省「新しい時代の働き方に関する研究会 報告書」2023年
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001166321.pdf
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