
研修を“やりっぱなし”にしない!成果を生むフォローアップ設計とは
多くの企業が「研修後の定着」に頭を悩ませています。研修そのものは成功しても、現場での行動が変わらなければ投資効果は半減します。では、どうすれば「やりっぱなし」にならず、受講者の行動と成果を確実につなげられるのでしょうか。本稿では、サイコム・ブレインズが提供するフォローアッププログラム「まなラン®」の考え方をもとに、研修後の学びを成果に変える実践的な仕組みを紹介します。フォロー設計に悩む人事・研修担当者にとって、すぐに取り入れられるヒントが見つかるはずです。
目次[非表示]
- 1.研修後フォローアップが求められる理由
- 2.フォローアップ設計の基本フレーム
- 2.1.3段階で考えるフォローアップ構造
- 2.2.成果を左右する3つの設計ポイント
- 3.学びを行動に変える3つの仕掛け
- 3.1.アクションプランを自分で決める
- 3.2.ピアラーニングで刺激し合う
- 3.3.経験学習モデルで学びのPDCAを回す
- 4.行動変容を可視化する仕組みづくり
- 4.1.行動ログと自己チェック
- 4.2.定性情報を活かしたフィードバック
- 5.フォローアップにおけるAI活用とピアラーニングの融合
- 5.1.AIによる内省支援の効果
- 5.2.AI×ピアラーニングの好循環
- 6.成果を最大化するための運営のコツと事務局の役割
- 6.1.事務局が担うべき3つのサポート
- 6.2.上司と組織を巻き込むコツ
- 7.まとめ
- 8.FAQ
- 9.参照・出典
研修後フォローアップが求められる理由
研修効果を最大化するには、受講後の行動変容をどう支援するかが重要です。フォローアップは単なる確認ではなく、学びを現場で再現させる仕組みです。
なぜ研修は「やりっぱなし」になりやすいのか
多くの研修が、受講直後の満足度は高いものの、3か月後には記憶も意識も薄れるという課題を抱えています。人は新しい知識を得ても、実践と結びつかないと90%を忘れると言われています(エビングハウスの忘却曲線)。さらに、研修後の環境が変わらなければ、行動の定着は難しいでしょう。つまり「良い研修」だけではなく、「良いフォローアップ」が必要なのです。
さらに、研修効果を構造的に理解するにはカークパトリックの4段階評価モデルが有効です。
第1段階「反応(満足度)」と第2段階「学習(知識習得)」に偏ると、受講直後は好印象でも第3段階「行動(職場での実践)」、第4段階「成果(業績への影響)」へつながりにくい傾向があります。多くの企業が「学んだが行動が変わらない」状態に陥るのは、この第3段階を支援する仕組みが不足しているためです。つまりフォローアップとは、この“行動”段階を支える実践設計だといえます。
フォローアップの本質は“学習の継続設計”
フォローアップの目的は「再教育」ではなく、学習を持続させることです。サイコム・ブレインズが提唱する「ラーニング・エクスペリエンス・デザイン(LXD)」の考え方では、学びを点ではなく“旅”として捉えます。受講者が現場で試行錯誤し、気づきを共有しながら成長していくプロセスこそが、真のフォローアップといえます。
参考:
▶表1:研修後フォローアップの必要性
課題 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
行動変容が続かない | 環境・支援が不足 | グループでの相互支援と上司の関与 |
学びが忘れられる | 実践機会が少ない | 短期サイクルでの実践・振り返り |
成果が見えない | 測定指標が曖昧 | 行動・成果の可視化と共有 |
実務への落とし込み: 研修計画時から、フォローアップ期間を「研修の一部」として設計する。
フォローアップ設計の基本フレーム
フォローアップは、個人の行動変容を組織全体の成果に転換する「学びの設計」です。構造的に捉えることで、再現性を持たせることができます。
3段階で考えるフォローアップ構造
- 個人フェーズ: 自身の学びを振り返り、アクションプランを策定する。
- グループフェーズ: 受講者同士で進捗・課題を共有し、相互に支援する。
- 組織フェーズ: 上司や人事が評価・支援し、成果を業務へ転換する。
このように「個人→チーム→組織」の三層構造で設計することで、行動変容の持続率が高まります。
成果を左右する3つの設計ポイント
- 行動の“見える化”: 行動目標を明確に数値化(例:週1回実践・月次報告)。
- 伴走支援の設置: コーチ・メンター・AIなどを用い、内省を促す。
- フィードバックのループ化: 定期的なふり返りと再目標設定を行う。
▶図1:フォローアップ設計の全体フレーム
実務への落とし込み: 設計時に「誰が・いつ・どのように支援するか」を明文化する。
学びを行動に変える3つの仕掛け
研修後フォローアップの核心は、「知識」を「行動」に変える支援設計です。ここでは実践的な3つの仕掛けを紹介します。
アクションプランを自分で決める
受講者が自ら行動目標を立てることで、主体性が高まります。例えば「顧客ヒアリングの回数を週3回に増やす」など、具体的な数値目標にすることがポイントです。当社のフォローアッププログラムでは、研修後にアクションプランを共有(学習プラットフォームに投稿)し、小グループで実践・振り返りを繰り返す設計を取り入れています。
ピアラーニングで刺激し合う
同じ学びを共有する仲間の存在が、行動を促します。約4人のグループで定期的にコーチングセッションを行い、互いの挑戦や失敗を共有することで、「続ける力」と「実践の深まり」が生まれます。学びを孤立させず、コミュニティの力で定着させることが重要です。
経験学習モデルで学びのPDCAを回す
「知識を行動に変える」プロセスを理論的に説明すると、コルブの経験学習モデルに重なります。これは「具体的経験 → 内省 → 概念化 → 実践」という4段階の循環です。研修では「概念化」までが中心ですが、フォローアップはその後の「実践」と「再内省」を担います。このようにアクションプランの実践→振り返りを繰り返す仕組みは、この経験学習のサイクルを実際の業務上で回すための装置といえます。フォローアップとは、“学びのPDCA”を自然に回すための実践設計にほかなりません。
▶表2:行動変容を促す3つの仕掛け
仕掛け | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
アクションプラン | 具体的な行動目標を設定 | 自己効力感が高まる |
ピアラーニング | 仲間と振り返りを共有 | 継続意欲が向上 |
定期チェック | 行動記録を可視化 | 成果測定と改善が容易 |
実務への落とし込み: フォローアップ開始前に「自己決定型アクションプラン」を導入する。
行動変容を可視化する仕組みづくり
フォローアップの成功には、行動変容を“見える化”する仕組みが欠かせません。感覚ではなく、データで変化を確認することで改善サイクルが生まれます。
行動変容を測定する際にも、カークパトリックモデルの第3・第4レベルが活用できます。
- 第3レベル(行動):職場での新しい行動の頻度や質を測定(例:会議での発言回数、提案数など)
- 第4レベル(成果):チームの生産性・顧客満足度・業務改善率などをKPIとして設定
行動ログと自己チェック
受講者が自分の実践を記録し、定期的に自己評価を行う仕組みを設けると、変化が定量的に把握できます。「まなラン®」では、学習プラットフォーム上で自己チェック履歴を蓄積し、行動変容を測定する仕組みが備わっています。
定性情報を活かしたフィードバック
行動の「量」だけでなく「質」も評価することが大切です。投稿やふり返りのコメントを活用すれば、個々の成長プロセスや課題発見を定性的に把握できます。AIやコーチが寄り添うフィードバック設計を取り入れると、内省の深まりと行動修正がスムーズになります。
実務への落とし込み: 数値(行動量)+記述(内省)の両面でフォローアップを設計する。
フォローアップにおけるAI活用とピアラーニングの融合
テクノロジーを活用することで、フォローアップの負荷を軽減しながら学習の質を高めることができます。AIと人の学び合いを組み合わせるのが新しい潮流です。
AIによる内省支援の効果
AIコーチング機能は、受講者が自らの課題や目標を言語化する手助けをします。例えば「今週一番うまくいったことは?」「次の行動をどう変える?」といった問いかけを通じて、自己内省が習慣化されます。短時間で振り返りができるため、継続性が高まります。
AI×ピアラーニングの好循環
AIによる個人支援と、グループでのピアラーニングを掛け合わせると、学びの深さが格段に増します。個々がAIとの対話で整理した気づきをグループで共有することで、他者視点からの学びが生まれ、組織的な知の蓄積につながります。「まなラン®」とAIコーチングを融合させたプログラムもご提供可能です。
▶図2:AI×ピアラーニングの学習サイクル
実務への落とし込み: フォローアップ設計に「デジタル×人」を両立させる要素を組み込む。
成果を最大化するための運営のコツと事務局の役割
研修フォローアップの成果を左右するのは、受講者だけでなく「運営の質」です。事務局・上司・人事がどう関わるかがカギになります。
事務局が担うべき3つのサポート
- 進行の自動化: 学習プラットフォームを活用し、案内・リマインド・レポート送信をシステム化。
- 可視化の共有: 管理画面で受講状況を把握し、上司と共有。
- フィードバック促進: 振り返りの投稿に対し、短いコメントでも反応する。
これにより、受講者のモチベーション維持と、事務局の負担軽減が両立します。
上司と組織を巻き込むコツ
上司がフォローアップに関与することで、学びは業務へ転化されやすくなります。具体的には、週次1on1や月次面談で「学び→実践→成果」を確認するサイクルを取り入れると効果的です。人事は、こうした支援の仕組みを全社で横展開し、学習文化を定着させましょう。
行動変容には「自己効力感(Self-efficacy)」が密接に関わります。心理学者A.バンデューラは、人は「自分はできる」と感じたときにのみ行動を継続できると述べています。そのため、上司や事務局がフィードバックを通じて“小さな成功体験”を認めることが、フォローアップの推進力になります。これは単なる承認ではなく、社会的学習理論に基づく「観察学習」の促進でもあります。上司自身が学びを実践する姿勢を見せることで、部下の行動変容が波及するのです。
▶表3:フォローアップ運営の成功要素
要素 | 担当 | 実施内容 |
|---|---|---|
システム運用 | 事務局 | 自動化とデータ管理 |
現場支援 | 上司 | 定期面談でのフィードバック |
全社展開 | 人事 | 仕組みの標準化と評価連動 |
実務への落とし込み: フォローアップ担当者を“運営者”ではなく“伴走者”として位置づける。
まとめ
研修後のフォローアップとは、受講者が学んだことを現場で活かし、成果につなげるための“学びの仕上げ”です。一度きりの研修で行動が変わる人は多くありません。だからこそ、学びを試し、振り返り、仲間と共有する時間が必要です。
重要なのは、個人任せにせず、上司や人事が伴走しながら「続けられる仕組み」を整えること。行動の変化を見える形で確認し、少しずつ成功体験を積み重ねていけば、学びは確実に定着します。
研修を“やりっぱなし”にせず、フォローアップを通じて学びが息づく組織をつくること——それが、育成投資を成果へ変える最も確かな道です。
FAQ
Q1. 研修後フォローアップの理想的な期間は?
一般的には2〜3か月が効果的です。短すぎると行動変容が定着せず、長すぎると集中力が低下します。「まなラン®」も約3か月を標準としています。
Q2. AIを使ったフォローアップは本当に効果がある?
AIは問いかけを通じて内省を促すため、人手では難しい“継続的な自己対話”が実現できます。あくまで人の支援を補完する仕組みとして効果的です。
Q3. フォローアップの成果はどう測ればよい?
行動ログ(数値)と内省コメント(質的情報)を組み合わせて測定します。例えば「週1回の実践報告」や「上司のフィードバック頻度」などが指標になります。
Q4. 上司を巻き込むにはどうしたらよい?
「育成支援も評価対象」と位置づけると効果的です。フォローアップ報告を1on1で活用するなど、上司にも“使える仕組み”にすることがポイントです。
Q5. 多人数でも運営できる方法は?
学習管理システムを活用すれば、案内・進捗管理・リマインドを自動化できます。まなラン®のように事務局負担を減らす仕組みを導入するとスムーズです。
Q6. 自社オリジナルのフォローアップを設計したいが相談できる?
はい。サイコム・ブレインズでは、貴社の研修テーマや受講者層に合わせたフォローアップ設計のご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。
参照・出典
- 『まなランフォローアッププログラム+CoachAmit』(MBK Wellness株式会社, 2025年9月)
- エビングハウスの忘却曲線(Hermann Ebbinghaus, 1885)
- Kolb, D. (1984). Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development.
- Bandura, A. (1997). Self-Efficacy: The Exercise of Control.



