
社員研修が失敗する理由5選――成功するための改善策
社員研修は、企業が人材に投資する代表的な施策です。しかしながら現場からは「やった感はあるけど成果が見えない」「研修後に行動が変わらない」といった声が後を絶たないこともあります。実際、多くの企業が研修そのものには予算と時間をかけている一方で、「設計」「実行」「定着」のどこかでつまずいていることが多いでしょう。
本記事では、社員研修が失敗する典型的な理由を5つに整理し、企画段階・実行段階それぞれの失敗事例を踏まえながら、成功に導く具体的な改善策を解説します。人材開発部門やHRD担当者だけでなく、現場マネージャーにも役立つ内容となっています。
目次[非表示]
- 1.社員研修が失敗する構造的背景
- 2.どうして研修が失敗してしまうのか その①
- 2.1.目的と成果指標が曖昧
- 2.2.改善の視点
- 3.どうして研修が失敗してしまうのか その②
- 3.1.現場と切り離された研修設計
- 3.2.改善の視点
- 4.どうして研修が失敗してしまうのか その③
- 4.1.受講者起点が欠けている
- 4.2.改善の視点
- 5.どうして研修が失敗してしまうのか その④
- 5.1.実行プロセスの設計不足
- 5.2.改善の視点
- 6.どうして研修が失敗してしまうのか その⑤
- 6.1.研修後フォローが存在しない
- 6.2.改善の視点
- 7.まとめ
- 8.FAQ(7問)
- 9.引用・参照元とURL一覧
社員研修が失敗する構造的背景
日本企業では長らく「研修=一度実施すれば終わり」「人を集めて学ばせること自体が成果」という発想が根強く残ってきました。その結果、研修が経営戦略や事業課題と十分に接続されないまま運用され、形骸化していったケースが少なくありません。
また、人材育成部門・HRD(Human Resource Development)が現場の業務実態や受講者の学習プロセスを十分に理解しないまま研修を企画してしまうことも、失敗を構造化させる大きな要因です。こうした背景を理解せずに個々の改善策を講じても、根本的な解決にはなりにくいでしょう。
次に研修が失敗する理由と改善の視点を5つに整理してみました。順に見ていくことにしましょう。
どうして研修が失敗してしまうのか その①
研修そのもののゴールも大切ですが、経営課題や業務課題に対して、何のために、誰の、何の、どのような課題を解決したいのかなどを明確にする必要があります。失敗する理由と改善の視点を見てみましょう。
目的と成果指標が曖昧
社員研修で最も多い失敗が、「なぜこの研修をやるのか」「研修が終わった後、職場や人に何が起きていれば成功と言えるのか」が明確に定義されないまま企画・実施されることです。
特に人材育成部門や現場管理職が忙しい企業ほど、「例年通り」「急ぎの対応」として研修が始まりやすく、この曖昧さが温存されてしまいがちになります。
よくある失敗パターン
「とりあえず毎年実施しているから」
「他社もやっているテーマだから」
「現場から要望があったから」
これらはいずれも動機としては理解できるものですが、「どの業務課題を、どの行動変化で解決したいのか」という設計視点が欠けています。成果指標(KPI)が存在しない研修では、実施後に「良かったのか悪かったのか」を客観的に評価できず、改善も行うことができないでしょう。
成果につながらない理由
行動変容の定義がない(何が変われば成功なのか不明)
現場指標(業績、生産性、離職率など)との関連が見えない
評価がアンケート満足度で止まり、行動や数値を追っていない
特に満足度評価は「理解度」や「講師の印象」を測る指標となりがちで、行動変化や成果を保証するものではない点には留意したほうが良いでしょう。
▶図1:参加度を高めて気づきを深めることが重要

改善の視点
目的は「知識習得」ではなく、「どのような行動が、いつ、どの程度変わるのか」で定義する必要があります。研修企画時点で、現場で観察できる変化にまで落とし込むことが重要になります。
例:
「会議での発言者数が増える」
「上司と部下の1on1実施率が月1回以上になる」
「業務のリードタイムが〇%短縮される」
このように、研修をイベントではなく「行動変革プロジェクト」として再定義することが、失敗を防ぐ第一歩となるでしょう。
どうして研修が失敗してしまうのか その②
研修コンテンツで取り上げられる知識やスキルは本当に現場で活用できる内容なのか、実践に結びつけることができる設計になっているのかに着眼すべきです。失敗する理由と改善の視点を見てみましょう。
現場と切り離された研修設計
研修室の中だけで完結する研修は、高い確率で失敗します。どれほど内容が良く、講師の質が高くても、「現場で使われない知識」は急速に忘れられて行動変容にはつながりません。
特に近年は業務スピードが早く、現場の負荷も高いため、「あとで試そう」と思っているうちに通常業務に埋もれてしまうケースがほとんどです。研修と現場の間に明確な接続点がなければ学習は定着しないのです。
問題の本質
現場の制約(時間・業務負荷)が無視されている
上司が研修内容を理解していない
実践の場が設計されていない
これらは個別の問題に見えますが、共通点は「研修を現場の仕事の一部として設計していない」ことにあります。研修が特別なイベントとして切り離されている限り、現場復帰後に優先順位が下がるのは必然です。
ID(インストラクショナルデザイン)は、「人が効果的に学習し、行動に移すための設計理論」ですが、これは単なる教授設計ではなく、「どう学ばせ、どう使わせ、どう定着させるか」までを含めて設計する考え方です。代表的なフレームにガニエの9教授事象がありますが、多くの研修では以下が欠けがちです。
学習内容の「転移(現場適用)」設計
フィードバックの仕組み
繰り返し実践する機会
▶図2:研修を効果的なものにする9つの働きかけ

特に「転移」が設計されていない研修では、受講者自身が現場でどう使えば良いかを想像できず、結果として「わかった気がする研修」で終わってしまいます。
改善の視点
研修後に現場課題と結びついた実践課題を設定
上司を巻き込み、現場での使用を前提にした研修設計にする
OJTや評価制度と連動し、「使わないと評価されない」状態をつくる
研修は「現場から切り離さない」ことが何より重要です。業務の一部として組み込まれて初めて、学びは行動に変わり、組織の成果へと転換されていきます。
どうして研修が失敗してしまうのか その③
人事や研修運営をする側の論理で設計していては、受講者が二の次のような扱いをされてしまうこともあり得ます。あくまでも主軸は受講者です。失敗する理由と改善の視点を見てみましょう。
受講者起点が欠けている
近年、社員研修の成果を大きく左右する考え方として注目されているのが、「ラーニングエクスペリエンスデザイン(LXD)」です。研修が「実施しただけ」で終わってしまう企業ほど、この視点が欠けています。
LXDは、「学習者がどのような体験プロセスを通じて学び、どのように行動が変わるのかを中心に設計するアプローチ」です。
従来の研修が「何を教えるか」「どんな教材を使うか」に重きを置いていたのに対し、LXDは受講者の感情・動機・業務文脈まで含めて設計します。
例えばLXDでは、
なぜ今この研修を受けるのか
自分の仕事とどう関係するのか
学ばないとどんな不都合があるのか
といった「意味づけ」を、研修前から丁寧に設計します。
単なる知識インプットではなく、行動変容までを一連の「体験」として捉える点が最大の特徴です。
このような受講者起点が欠けた研修では、次のような問題が頻発します。
自分の課題と結びつかず「他人事」になる
業務が忙しくなると真っ先に後回しにされる
その場では納得しても、行動に移されない
結果として、受講後に残るのは「良い話だった」「分かりやすかった」という満足度だけで、現場は何も変わりません。
▶表1:従来研修とLXD(ラーニングエクスペリエンスデザイン)型研修の違い
違いの観点 | 従来型 | LXD型 |
|---|---|---|
考え方の起点 | 受講者の理解と習得 | 学び続ける体験 |
設計の特徴 | 一律的なプログラム | 個別カスタマイズによる最適化 |
成果の捉え方 | 知識やスキルの実践活用 | 行動変容、知識やスキルの実践継続、新たな学びの連続性 |
改善の視点
LXDの考え方を取り入れるためには、以下の視点が欠かせません。
受講前…現場の課題を言語化させる事前内省がある(自己診断・問いの提示)
研修中…対話・試行・失敗を反復でき、それを推奨する設計になっている
研修後…業務で試すことができ、振り返る体験が組み込まれている
研修を「イベント」ではなく、学習者の行動変容を導く「ラーニングジャーニー(現場での学習体験を通じて、時間をかけて知識を定着させる。学びの旅)」として設計することが、失敗を防ぐ最大の鍵となります。
どうして研修が失敗してしまうのか その④
研修は受講者が主人公ですが、実践期間中などで学びを受講者任せにしてはいけないでしょう。実行段階での運営側や現場側との情報共有も大事です。失敗する理由と改善の視点を見てみましょう。
実行プロセスの設計不足
研修企画が完成しても、実行プロセスが具体的に設計されていない研修は、高確率で期待した成果を生みません。どれほど内容が優れた研修であっても、実施段階でつまずけば、学習体験は分断され、受講者の行動変容にはつながらなくなります。
よくある実行上の課題
日程調整を現場任せにしてしまう
上司の研修に対する理解と関わりが不足している
運営オペレーションに余裕がない状態で回している
これらの課題は一見すると単なる段取り不足に見えますが、根本には「研修を業務としてどう位置づけるか」という経営・管理職側の意思決定不足があります。
結果として、受講者は「忙しい中で無理やり参加させられた」という感覚を持ち、学習への集中度が大きく下がります。
研修効果を左右する要因は、「設計品質 × 実行環境」であり、このかけ合わせが十分にできているかにかかっています。
改善の視点
上司向け説明資料の整備とオリエンテーション(もしくはダイジェスト版研修受講)
→ 研修目的、期待行動、現場での支援役割を明確に伝える参加前後のコミュニケーション設計
→ 事前説明、事後フォロー、実践報告の場を組み込む実施責任者の明確化
→ 「誰が成功に責任を持つのか」を曖昧にしない
研修は組織全体で実行するプロジェクトと捉えて、実行プロセスまで含めた設計ができて初めて、現場を変える力を持ちます。
どうして研修が失敗してしまうのか その⑤
人が学びを自分のものにするためにはある程度の時間が必要になってきます。一足飛びで学びを物にするのは困難でしょう。失敗する理由と改善の視点を見てみましょう。
研修後フォローが存在しない
社員研修が「やりっぱなし」で終わること。それは失敗と言って良いでしょう。研修直後は意欲が高まっていても、フォローがなければ人は必ず元の行動に戻ります。
研修後のフォローが設計されない背景には、「人材開発部門と現場マネジメントの役割分担が曖昧」「フォローを現場任せにしている」があります。つまり「学びをどう定着させるか」が誰の仕事か明確でないわけです。
一度失敗経験が積み重なると、受講者の中に「どうせ次も変わらない」「研修はその場限り」という学習性無力感が生まれます。これが最も避けるべき状態です。
実践し続け、体得し、学習体験を続けることが重要なのですが、インストラクショナルデザイン(ID)では、学習の最終段階は「定着」と「応用」が重要と考え、LXDでは、研修後の期間も含めて「学習体験」が続いていることが重要と考えます。
IDやLXDの思想に則った仕組みを設計し、学習体験が未完にならないようにすることが大切になります。
改善の視点
研修後30日~90日での振り返りセッション設計
上司による行動確認と対話(評価ではなく支援)
研修内容と連動した現場実践チェックリストの活用
小さな成功体験を言語化し共有する仕組みづくり
上記は例ですが、「実行したか」だけでなく、「継続しているか」を見る視点が重要です。
まとめ
社員研修が失敗する理由は、「研修そのもの」に問題があるのではなく、研修をどのように設計し、どのように組織に接続しているかが十分に検討されていないことにあります。
目的や成果指標が曖昧なまま研修を企画してしまう。現場や上司と切り離された状態で実施してしまう。研修後のフォローや実践設計を行わないで実施してしまう。この一連の構造が、研修成果を低いものにしてしまうのです。
成功している企業に共通する点としては、
●研修を人事施策ではなく経営や現場課題の解決手段として捉えていること
●インストラクショナルデザイン(ID)とラーニングエクスペリエンスデザイン(LXD)の両面から、学習から行動への転移を前提に設計していること
●研修前、研修中、研修後を一つの「ラーニングジャーニー(学びの旅)」として捉え、上司、評価制度、OJTと一体化させていること
人材開発部などの役割は「研修を企画・運営すること」ではなく、現場での行動変容が起きる仕組みを設計し、定着させることにあります。研修を点で考えるのではなく、線や面で捉え直すことが、これからの人材開発に不可欠でしょう。
FAQ(7問)
Q1:忙しい現場から「研修は業務の邪魔」と言われます。どう対処すべきですか?
A:研修が現場課題と接続されていない可能性があり得ます。研修テーマを「能力開発」ではなく、「現場課題を解決する手段」として再定義し、研修後に業務と直結した実践課題を設定することで納得感が高まります。
Q2:研修効果はアンケート満足度以外にどう測れば良いですか?
A:行動指標(KPI)を設定することが重要です。例えば「1on1実施回数」「会議での発言回数」「業務リードタイム」「部下アンケートの変化」などです。満足度はあくまで参考指標であり、行動変化と現場指標を見る設計が必要です。
Q3:IDとLXDはどちらを重視すべきですか?
A:両方が必要です。IDは「学ばせるための構造設計」、LXDは「学び続けたくなる体験設計」です。IDだけでは「正しいが続かない研修」になり、LXDだけでは「楽しいが成果につながらない研修」になりがちです。補完的に使うことが重要です。
Q4:研修後のフォローまで手が回りません。最低限やるべきことは何ですか?
A:最低限、次の3点です。「研修後の実践課題の提示」「上司への共有(何を学び、何を試すのか)」「1〜3か月後の簡単な振り返り」これだけでも行動定着率は変わります。
Q5:上司をどう巻き込めば良いですか?
A:上司を「支援者」ではなく研修プロセスの一部として設計します。研修前に説明資料を配布し、「部下に何を期待するか」「どうフィードバックするか」を明確にすると、現場連動が進みます。
Q6:研修を内製化すべきか、外部に頼るべきか迷っています。
A:基本方針は、「設計思想(目的・KPI・現場接続)は内製」「専門性やコンテンツは外部活用」ですが、初めから外部と相談しながら行うのが良いでしょう。教育の手段や内容だけを依頼すると、失敗リスクが高くなります。
Q7:研修成果が出るまで、どれくらいで判断すべきですか?
A:即時成果ではなく、6か月〜1年単位で見る設計が現実的です。短期では行動指標、中期では業績や組織指標の変化を追う二段階評価がおすすめです。
引用・参照元とURL一覧
1.経済産業省「人材版伊藤レポート」
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220513001/20220513001.html
2.厚生労働省「能力開発基本調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/104-1.html
3.ASTD(Association for Talent Development)
4.Gagné, R.M. “The Conditions of Learning”
5.IPA「DX人材育成指針」
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-transformation/model.html
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