
社員の成長を促す上司の関わり方――部下のやる気を引き出す7つの実践手法
管理職の方々は、部下のモチベーション管理に日々悩んでいる人も多いことでしょう。何が部下のやる気を低下させているのか。その原因は、部下の職場や生活の環境、仕事の中身、そして社内外の人との人間関係なども影響しているかもしれませんが、上司の関わり方に原因が潜んでいる可能性もあることでしょう。本記事では、まず上司との接点で部下がやる気を失う心理を理解いただいた上で、部下のやる気を引き出していく実践手法をご紹介します。
目次[非表示]
- 1.はじめに:なぜ「上司の関わり方」が部下の成長を左右するのか
- 2.部下がやる気を失う心理メカニズム
- 3.やる気を引き出す上司の7つの実践手法
- 3.1.手法①:部下の「やる気スイッチ」を理解する — 欲求構造に基づくアプローチ
- 3.2.手法②:「期待」を言語化して明確に伝える — 伝わるコミュニケーション
- 3.3.手法③:部下の強みを「見える化」し、小さな成功体験を積ませる
- 3.4.手法④:対話を「質問中心」に切り替える — コーチング的アプローチ
- 3.5.手法⑤:心理的安全性を高める — 安心できる関わり方
- 3.6.手法⑥:定期的な1on1とメンタリング — 振り返りと成長支援の仕組み
- 3.7.手法⑦:成長を促す「チャレンジ機会」を適切に与える
- 4.モチベーションを取り戻した成功事例
- 5.まとめ
- 6.FAQ(7問)
- 7.引用・参照元とURL一覧
はじめに:なぜ「上司の関わり方」が部下の成長を左右するのか
「優秀な人材を採用したのに、思うように育たない」
「配属直後は意欲的だった部下が、半年後には消極的になっている」
多くのマネージャーが経験する悩みです。しかし近年の組織行動研究は、この「やる気の消失」は部下の能力不足や性格の問題ではなく、上司との関わり方に大きく左右されることを明らかにしています。
職場の雰囲気、相談のしやすさ、期待の伝わり方、任され感、承認の頻度など、これらすべてが、部下の「心理的欲求」の満たされ方に直接影響します。
特に、「自律性(自分で選べる・決められる)」「有能感(成長している実感がある)」「関係性(信頼してもらえている)」という自己決定理論で示される「三大欲求」は、部下が意欲的に働くための中核要素です。
つまり、上司がこれらを満たす関わり方をすれば、部下は自然と自走し、成長も加速します。逆に、意図せずこれらを阻害してしまう関わり方をすると、部下は急激にやる気を失っていきます。
▶図1:自律性・有能性・関係性が行動意欲を高める鍵

部下がやる気を失う心理メカニズム
「どうしてこの部下はやる気がないのか?」
このように上司が悩む場面は多くありますが、心理学の視点で整理すると、理由は大きく次の4つに分類されます。
(1)承認不足による「無価値感」
人は誰しも「自分の存在や貢献が認められている」という感覚を求めます。
しかし、上司が忙しいとフィードバックは後回しになりがちです。
頑張っても反応がない
挑戦しても評価されない
改善点ばかり指摘される
こうした状態が続くと、「自分は必要とされていない」という「無価値感」が生まれ、やる気が急速に低下します。
(2)過剰なマイクロマネジメント
細かく指示され、判断の余地がない状態では、自律性が奪われます。
逐一確認される
任せてもらえない
上司の指示待ちにならざるを得ない
これらが積み重なると、部下は「どうせ自分が考える必要はない」と学習し、思考停止が起こります。
(3)業務負荷と成長支援のアンバランス
タスクが多過ぎて成長の余裕がない状態では、未来への希望が持てません。
毎日が「作業処理」で終わる
相談する時間もない
成長機会や学びの時間を確保できない
このような状態は、部下の有能感を奪い、疲弊を加速させます。
(4)上司との関係性ミスマッチ
価値観やタイプの合わなさも大きな要因です。
相談しても否定的な反応が返ってくる
感情や背景を理解してもらえない
話しかけることに心理的ハードルがある
特にミスマッチが長期間放置されると、部下は「どうせ理解してもらえない」と関わりを避けるようになり、やがて無気力状態に陥ります。
▶図2:やる気が失せていく部下の心理の流れ

やる気を引き出す上司の7つの実践手法
部下のモチベーションは、「本人の資質」だけでは決まりません。実際には、上司の日々の関わり方、声のかけ方、期待の伝え方、支援の仕方が非常に大きく影響します。ここでは「行動すれば誰でも実践できる」再現性の高い7つの手法を紹介します。
手法①:部下の「やる気スイッチ」を理解する — 欲求構造に基づくアプローチ
モチベーションは「一つの方法で全員が動く」ものではありません。有名なマズローの欲求段階説、ハーズバーグの動機付け理論でも明らかなように、人が感じる「やる気」は多層的です。
例えば、
承認されることが励みになるタイプ
成長や挑戦が報酬になるタイプ
安定や安心感が前提にならないと力を発揮できないタイプ
仲間と協働することが好きなタイプ
など、多様です。
上司に必要なのは、表面の行動だけを見て判断するのではなく、「この部下はどんな条件下で一番輝くのか?」という視点で観察することです。
実践ポイント
★毎週の1on1で「最近、仕事で楽しかったこと/嫌だったこと」を質問する
★小さな成功体験や達成感を、どのように捉えているかを探る
★キャリアの方向性を定期的にアップデートする
部下の「やる気の源泉」がつかめるほど、言葉が刺さり、任せ方も最適化できます。
手法②:「期待」を言語化して明確に伝える — 伝わるコミュニケーション
部下がやる気を失う典型例のひとつが「何を求められているのかが曖昧」という状況です。「頑張って」「もっと主体的に」だけでは行動できません。必要なのは、「期待の具体化」です。
実践ポイント
★「今回のプロジェクトで、あなたに特に期待しているのは〇〇の部分です」
★行動ベースで示す:「会議では必ず1つ改善案を出してほしい」
★「結果」だけではなく「役割」も明確にする
人は「期待されている」と感じると、自己効力感が上がり、行動量も増えます。
逆に期待が不明確だと、萎縮や迷いが増し、モチベーションは簡単に低下します。
手法③:部下の強みを「見える化」し、小さな成功体験を積ませる
やる気を高める最も強力な源泉のひとつが「自分はできる」という感覚(自己効力感)です。
自己効力感は、
成功体験
周囲からの期待
模倣できるロールモデル
心理的安全性
によって強化されます。
そのため上司は、部下の強みや特性を正確に捉え、強みを活かして成果を出せるシーンを意図的に増やすことが重要です。
実践ポイント
★部下の良い行動を「行動レベル」でフィードバックする
例:「会議の議事録、論点が整理されていてすごく助かった」
★小さな成功を見逃さず、すぐに承認する
★苦手な領域にはすぐ着手させず、まず得意領域で自信をつけさせる
「評価」ではなく「承認」。この違いを理解している上司は、部下の成長速度が圧倒的に速いです。
手法④:対話を「質問中心」に切り替える — コーチング的アプローチ
昔ながらの指示命令型のコミュニケーションだけでは、部下は自ら動きません。やる気の核心は「内発性」によるものです。それを引き出すには、部下自身が考え、言語化するプロセスが必要です。そのため効果的なのが、「コーチングの質問をベースにした対話」です。
実践ポイント(質問例)
「今の課題をどのように捉えていますか?」
「もし自由に改善できるとしたら、どこから手をつけたいですか?」
「今回の仕事で、何を得たいと思いますか?」
「理想を10点とすると、今は何点くらい? 足りない点は何でしょう?」
質問は、部下に思考を促し、前向きな主体性を引き出します。回答に対する評価を急がず、まず「興味を示しながら聞く」ことがポイントです。
手法⑤:心理的安全性を高める — 安心できる関わり方
心理的安全性は、ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソンが提唱した概念で、「否定されない」「見下されない」「恥をかかされない」環境のことを指します。
心理的安全性が低いと、
発言が減る
挑戦しなくなる
ミスを隠す
上司との距離が生まれる
という状況になり、当然やる気も低下します。
実践ポイント(上司ができる行動)
★部下の意見を遮らず、最後まで聞く
★意見を否定する前に「ありがとう、それも視点のひとつ」と受け止める
★ミスを責めず、「改善学習」のスタンスを示す
★日常的に雑談し、心理的距離を縮める
心理的安全性は、「雰囲気の問題」に見えて、実は業務の生産性を左右する極めて実務的な要素なのです。
手法⑥:定期的な1on1とメンタリング — 振り返りと成長支援の仕組み
やる気のある部下も、やる気を失いかけている部下も、定期的な1on1がある職場のほうが部下の成長速度において圧倒的に高いことが、海外研究でも示されています。
1on1は面談ではなく、関係構築と成長支援のための場と捉えましょう。
実践ポイント(効果的な1on1の進め方の例)
近況(感情)の確認
業務の振り返り
課題と成功の分析
キャリアの相談
次回までの行動目標の設定
また、メンター制度がある場合、直属ではない上司が第三者として関わることで、より広い視点や安心感が得られます。
手法⑦:成長を促す「チャレンジ機会」を適切に与える
部下のやる気は、「この仕事には成長がある」と本人が感じた瞬間、一気に高まります。そのために上司がするべきことは、部下のレベル+1の難易度の仕事を計画的に割り当てることです。難しすぎると挫折し、易しすぎると退屈し、やる気を失います。
実践ポイント(チャレンジ機会の与え方)
★最初に成功しやすいスモールチャレンジを設定
★明確な期待とゴールをセットで伝える
★定期的にフォローし、感情面もケアする
★達成したら「成長の証拠」としてフィードバックする
チャレンジ体験を重ねるほど、部下は自信を持ち、自ら成長を求める状態へと変わります。
これら7つの手法はどれも「即日実践可能」ですが、最も重要なのは、「部下のことを理解しようとする姿勢」です。
スキルより前に、部下に対して「関心と敬意」を持つようにしましょう。これがある上司ほど、部下は自然にやる気を取り戻し、成長スピードが加速します。
▶図3:やる気を引き出す7要素と得られる期待

モチベーションを取り戻した成功事例
事例①:やる気を失っていた若手社員が「主役」へ変わった
背景:静かに沈んでいくパフォーマンス
入社3年目のAさん(20代)は、元々は素直で飲み込みも早く、上司も期待を寄せるタイプでした。しかし、ある時期から表情が暗くなり、報連相が極端に減り、ミスも増加しました。周囲からも「自信を失っているようだ」「以前の勢いがない」と言われるほどでした。
上司が理由を探ると、Aさんは小さな改善提案をいくつか出していたものの、それが会議でスルーされがちで、頑張りが認められていないと感じていたことがわかりました。さらに、先輩社員との比較で自信が削がれ、「自分には価値がない」と思い込んでいたのです。
介入:小さな成功を積み重ねる「マインドアップ型1on1」
上司はまず、1on1の頻度を月1→週1 に変更し、Aさんの心理状態の回復を優先。
特に以下の3つを徹底しました。
- 「できている点」を事例付きで具体的に伝える
「顧客からの問い合わせ対応で、Aさんのレスが一番丁寧だった」など、評価を「事実ベース」で伝え、自信回復を図った。 - 小さな改善テーマを一緒に設定し、達成したらすぐ承認する
最初は5分でできるタスクから始め、「できた」という成功感を毎週積み重ねていった。 - 提案が採用される「安全な場」をつくる
会議に出す前段階で、上司が事前レビューを行い、提案が確実に適切に扱われる導線を引いた。
結果:仕事の主導権を握る“前向きリーダー”へ変化
約2か月程度過ぎた頃から、Aさんは驚くほど変わりました。
自ら会議で発言する
改善案を3件提案し、そのうち2件が採用
周囲の新人にも積極的に声かけした
「仕事が楽しくなってきた」と内省できるようになった
最終的には、Aさんはチーム内のミニプロジェクトのリーダーを任され、メンバーをまとめるまでに成長しました。「認められた」という実感が、人のモチベーションを劇的に変える典型的な成功事例となりました。
事例②:ミス続きで自信喪失していたベテラン社員が「再覚醒」した
背景:責任の重圧と変化への不安
勤続15年のBさん(40代)は、経験豊富で信頼も厚かったものの、新システム導入によって業務フローが大きく変わると、急にミスが増え、周囲も驚くほどパフォーマンスが低下しました。
Bさん本人は「時代の変化についていけない」「若手の方が適応力が高い」と自分を責め、落ち込む日々が続きました。
上司が声をかけても、「大丈夫です」と言いながら距離を置くようになり、完全に「心理的シャットダウン」を起こしていました。
介入:自己効力感を取り戻すための「巻き込み型関わり」
上司は、Bさんが抱えているのは「能力不足」ではなく「長年の成功体験が通用しなくなったことによる強い喪失感」であると見立てました。
そこで以下の3つの関わりを実施しました。
- 「経験を棚卸しする1on1」でBさんの強みを可視化
これまで成果を挙げてきた場面、得意な業務、人に感謝された事例を一緒に洗い出し、「自分には蓄積した強さがある」と再認識させた。 - 新システム移行プロジェクトへ「アドバイザー」として巻き込む
操作こそ若手の方が得意だが、顧客対応の勘所や業務全体の流れを理解しているのはBさん。プロジェクトに「実務知識の橋渡し役」として入ってもらい、価値を再構築した。 - 小さな成功を積ませるため、上司が「伴走者」として真横に立つ
新システムの習得も、いきなり全部ではなく「1機能ずつ一緒に覚える方式」に変更。「昨日よりもできた」という実感を毎週1on1で確認し合った。
結果:周囲から「頼れる存在」と再評価されるほどに復活
3か月程度経過すると、Bさんは以前の自信を完全に取り戻し、次のような良い状態を得ました。
新システム研修で講師役を担当
若手からの相談件数が増加
顧客対応の品質も向上
プロジェクトの重要意思決定に意見が求められる立場
そしてBさん自身も「今の方が成長を実感できている」と語るほど、意欲を取り戻しました。人は「価値ある役割がある」と実感したとき、その能力は再び息を吹き返すということを象徴するような成功事例と言えます。
まとめ
部下のやる気は、性格でも能力でもなく、上司の関わり方の質によって大きく変わります。「承認」「自律性支援」「成長の可視化」「強みの活用」「関係性づくり」、これらを丁寧に積み重ねることで、どんな部下でも必ず変化が起こります。そして部下が変わると、チーム全体の雰囲気も、成果も、大きく変わっていくようになります。
FAQ(7問)
Q1:やる気のない部下に最初にやるべきことは何ですか?
A:状態を見て判断するより、まず「背景を聞くこと」です。原因は必ず本人の内側にあります。
Q2:承認はどのくらいの頻度で行えば良いですか?
A:日に1回を目安とした「行動承認」が効果的です。大袈裟な承認は不要で、ちょっとしたことを認めてあげると良いでしょう。
Q3:1on1が雑談で終わってしまいます。改善方法はありますか?
A:テーマを事前に共有するだけで質が大幅に上がります。例えば、「この3ヶ月でできたこと/困っていること」などのテーマ設定をして臨んでみましょう。
Q4:強みが見つからない部下にはどう関われば良いですか?
A:上司が部下の「具体的行動」を拾うようにし、その行動の良いところを言語化してあげるようにしましょう。
Q5:マイクロマネジメントにならないための工夫は?
A:指示する際は「目的」と「期待状態」だけを伝えるようにし、「方法」は部下に任せるようにします。上司側の任せるという意識とその任せ方が重要です。
Q6:部下が反抗的な場合はどうすれば良いですか?
A:多くの場合、「理解されていない」という誤解が原因です。1on1で関係性を再構築することが最優先でしょう。
Q7:成長ロードマップはどのくらい細かく作るべきですか?
A:メンバーの個人差がありますが、3〜6ヶ月での「到達イメージ」と「必要なスキル」が示されていれば十分と言えるでしょう。
引用・参照元とURL一覧
1.Deci & Ryan「自己決定理論(Self-Determination Theory)」
https://selfdeterminationtheory.org/theory/
2.Herzberg「モチベーション理論(動機付け・衛生要因)」
3.Daniel Pink「DRIVE やる気に関する驚くべき真実」
4.Amy Edmondson「心理的安全性のつくり方」
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